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「ねぇ、答えてよ」
このままでは帰してもらえそうにないと直感的に理解して、俺は用意していた嘘をしれっと吐いた。
「あぁ、ごめんな?連絡くれてたんか。気がつかんかった。携帯壊れちゃってさ」
ギリギリの苦しい嘘。でも彼には嘘だと断定することも出来ない微妙な嘘。そのために一度も既読をつけないでおいたんだ。俺の手から携帯を奪って確かめない限りは露見しない、すなわち納得できなくても引き下がるしかない類いの嘘。
彼は軽く片眉を上げて、真偽を見極めるようにじっと俺の横顔を見つめている。賭けは五分だからこそ、ここが正念場だ。
「新しいの買ったらちゃんと連絡するから」
嘘だ。純度100%の真っ赤な嘘。
「ごめん、これからバイトなんよ。もう行かなきゃだから、悪い」
これも嘘。あれもどれもみんな嘘。それでも俺は笑って言い切らなきゃならない。今度こそ手を引き剥がす。触れた傍から心臓が爆発しそうだ。好きだと全身が叫んでるのを必死に抑え込んで、俺は席を立った。
「じゃあ、またな」
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