試練

18/23
170人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
「おれ、俺なん…っ、違くて、"俺で"いいの?」 伸ばした手は、振り払われることはなくて。頬に触れた俺の骨ばった手を覆い隠すことなく白い冷たい手が重なる。ニコリと微笑む表情にはとろりと蜜が滴って、そんな目で見ないでくれよ。胸がギュッとなる。 「俺、お前がいいよ。その、何も知らんけど、初めては全部全部お前がいい。こんなデカくてゴツくてお前より全然可愛くもなんともない男のカラダで気持ち悪いかもしれへんけど、俺は……抱かれるんやったらお前がいい」 頬から引き剥がした手を掴んで自分の胸に押し当てる。伝わるだろうか、この不規則に跳ね回る鼓動が手のひら越しにでも。膨らみもない真っ平の胸板を突き破りそうなバクバクが、ちゃんと。上手くまとめられない言葉の代わりにせめて、嘘のつきようがないこの緊張や動揺や不安を乗せた心臓の重みを。 十年も前のガキの頃から抱かれたかった、なんて云ったら流石に気持ち悪がられるだろうけど。恐る恐る見上げた瞳がその表情をとらえるより先にグ二っと口の中に捩じ込まれる熱い塊。 グチュグチュと、とんでもなくイヤらしい音が遅れて聞こえてくる。唾液が混ざりあって舐め回される舌がなぞる何もかもが苦しいほどに吸いついて飲み込んで、喰われる!と思わず目を閉じた瞬間、ぷはっと間抜けな呼吸音がした。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!