試練

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「僕は生涯を共に過ごすなら、他の誰でもない、君がいい。君と一緒に生きていく僕でありたい。君と出逢えて僕は初めて、しあわせって何なのかを知った。しあわせだって、生きてて良かった、生まれてきて良かった、って思えた」 お前が生きていてくれることが俺のしあわせ。 お前に出逢えた俺で、お前に愛される俺で良かった。 俺のしあわせは全部、お前の形をしてる。 「僕に愛を教えてくれてありがとう。もし君が僕と同じ気持ちなら、これ、受け取って」 震える指先が掲げる銀円に自分から指を通す。右の薬指にぴったりと嵌まったそれを誇らしげに見せつけて、笑い泣く。 「どうせあるんやろ?自分のも出しぃ」 催促すれば照れながら差し出されるもう一つの銀環。右手をぎゅっと引っ張って同じように薬指に嵌めてから、指を絡ませる。 「これでお前はもう俺のもんやな。そんで俺もお前のもん」 束縛、執着、名前は何でもいい。絆が明確な形を得たことでまた俺たちの未来はひとつの道に収斂していく。 「ひとつを選ぶって他を捨てるっちゅう意味やないやろ。ふたりで掴めるだけ掴んで、持てるだけ持って墓場まで行こうやないか。任しとき、俺のリーチはかなり長いからな、福でも何でも搔き集めてきたるわ」 ぎゅっと握りしめた手。それを嬉しそうに握り返すと彼は、痛いよ馬鹿ヂカラめ、と笑った。俺は情け深いからな、目尻に滲んだ光には気づかない振りをしてやった。
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