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大好きな家族
台所で音がする。
水の流れる音、野菜を切る音。トースターの音。いつも聞く音。
『飛鳥』
りゅうたの声がする。これはお父さん。
『龍太』
あすかの声がする。これはお母さん。
『おはよう、飛鳥姉、りゅう兄』
せいじの声がする。せいじはあすかの弟。おじさんというって先生が言っていた。
3人が話している声がする。たまに聞こえてくる笑い声がとても楽しそうだ。僕も行きたいけど、まだお布団の中にいたい。
只今5歳、幼稚園に通園している神道静弥はベッドの中で寝返りを打った。大きな窓から朝日が差し込んでいる。今日はとてもいい天気になりそうだ。
「静弥、もう起きてるんだろ? いっしょに飯食おうぜ」
誠治が部屋に入ってきて、掛け布団を持ち上げる。静弥は起きあがると軽く伸びをした。
「おはよー、せいじ」
「おはよう」
誠治に促されるまま、静弥はベッドから降りて台所に行った。すでに飛鳥と龍太はテーブルに座っていた。
「あすか、りゅうた、おはよーございます」
静弥は丁寧に頭を下げると、いつもの指定席に座った。静弥のために用意された子ども椅子。斜め前の飛鳥と龍太が笑顔で静弥の頭をなでる。
「おはよう、静弥」
毎朝変わらない朝の挨拶。横から誠治が静弥の分の朝食を置いて、テーブルについた。今日の朝ご飯は食パンとレタスとトマトのサラダ。テーブルの真ん中には人数分のゆで卵の入った籠が置いてある。
「いただきます」
静弥は手を合わせた。龍太と誠治も同じように声をあげ、手を合わせる。
「はい、召し上がれ」
飛鳥の応えが返り、食事が始まる。
「はい、静弥の分」
龍太がゆで卵の殻をむき、手で半分に割ると静弥のサラダの上に乗せた。
「ありがとう」
静弥はフォークでゆで卵を食べた。
「誠治は今日遅いのか?」
飛鳥が呟く様に問いかけた。
「そうだな。きっと残業だと思う」
「大変だな、新入社員」
むくれる誠治に龍太がからかう。
「りゅう兄だって。今年から担任持ってるんだろ? 大変だな」
「まあな」
龍太は高校の音楽の先生だ。生徒に大人気で、静弥の誕生日に膨大な量のぬいぐるみを持ち帰ってきた事がある。飛鳥は軽く笑うと、食べ終わって誠治の顔を見ている静弥の頬をつついた。
「食べ終わったら?」
「ごちそうさまでした!」
静弥は手を合わせると、近くにあったタオルで口元を拭いて椅子を降りた。龍太が新聞を片手に静弥に声をかける。
「早く用意しておいで」
「はあい!」
静弥は大急ぎで洗面所に向かった。
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