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冷たい実生の頭や顔を撫でながら、声を掛けた。
「実生。大丈夫だから、目を覚まして」
世界中がパニックに陥った日から、2カ月余り。デマ拡散の沈静化に合わせるように、発症者は日ごとに減っていた。
両親同様、月下症候群の研究に協力していた真波は、ある日、それなりに気心の知れた研究員に、実生の祖父の話と、自分の推測とを伝えた。
――月下症候群は、恐怖が引き金になっている――
あの日、真波は「恐怖」という感情を知った。もしも、かつての相方たちも、同じ思いをしていたとしたら……。
ダメ元だったが、研究員は興味を示した。様々な確認作業の後、「発症者の『恐怖』を和らげる」実験に着手した。
被検体に選ばれたのは、実生。発症した場合、調査研究に協力する旨を遺言していたのだ。
脳への電気信号やヒーリング音楽など、色々と試してみたがだめだった。これが最後の方法で、もう一週間続けている。
おとぎ話のいばら姫みたいだと思った瞬間、ある言葉が口を突いて出た。
――日頃月花と寵愛せしに――
実生が時々口ずさんでいたものだ。古典の一説だというが、詳しいことは知らない。
やっぱりだめか……。
そう思い手を離そうとしたとき、実生の眉がぴくりと動いた。あっと思うか思わないかのうちに、彼女の瞼が開いていく……。
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