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同じシャンプーに香りだけを
身にまとってベッドに潜り込む。
触れるのさえ躊躇する美しさを
欲にまみれた人間界に引きずり下ろして
俺の印をつけていく。
避妊しようとする手を
熱を帯びたままの実結が止めた。
「そのままして?」
「何で?」
「紀樹の赤ちゃんが欲しいから」
無意識に大きな溜息をついた。
「順番が違うやろ?」
「結婚できないなら赤ちゃんだけでも欲しい」
「わけわからんこと言うな」
「なら今日はしない」
無茶苦茶やな……。
「俺は無責任な事はしないって決めてる。今は子供が出来ても責任が取られへん」
「私一人で育てる。紀樹に迷惑は掛けない」
「何を愛人みたいなこと言ってんねん。そんな焦ってもしゃーないやろ。あと二年すれば弟も学校を卒業するし、それまでに親父が再就職すれば俺も自分の家族を作る事を考えられるかもしれんけど……」
親父の勤めていた会社は
最後の半年は給与の支払いがないまま倒産。
中年親父の就職は厳しくて決まらない。
アルバイトでも大して稼げない。
今は俺の収入と両親のパート代で
家計と学費を支えている。
脱サラする準備も少しずつ始めていて
設備投資と車のローンも返済中で
身動きできない状態だった。
「わかってるよ」
「やったら俺を困らせんな」
「……ごめん。頭冷やしてくる」
待て待て待て待て。
「実結。頭冷やす前に俺の息子をどうにかしてくれ(笑)」
「バカじゃないの?!」
いっつも自分のことばかりで
本物のバカなのは間違いなかった。
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