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「実結、愛してるよ」
「ずるいなぁ……」
愛の言葉を切り札代わりに使っても
俺の気持ちに嘘はない。
「ほんまやで?」
「紀樹はずるいよ……」
文句を言いながらでも
バカ息子の相手をしてくれる実結が
追い詰められていることに
気付いてやることは出来なかった。
「紀樹、ドライブ行きたい」
「今から?!」
「うん。夜景が見たい」
「クッタクタなんやけど……」
「一生のお願い♡」
「実結の一生のお願いは何回あんねん(笑)」
遅い時間の屋外展望台には
二人の他には誰もいなかった。
星が降り注いだような夜景に
しばらく無言で見惚れていた。
「綺麗だね……」
「そうやな」
実結のが綺麗だよ、と
照れずに言っておけば良かった。
うっすら涙を浮かべていたことには
途中で気が付いたけど
抱きついてキスをねだる実結は
いつもより明るくはしゃいでいたから
気のせいだと思っていた。
テンションの高さは翌日も変わらず
紀樹が「また来ような」と言うと
実結は「来れたらいいね」と言った。
別れる前。
二人で行った最後の旅行は
幸せを感じた分だけ自分の愚かさを知って
思い出すと胸が痛む。
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