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旅行が終わってから
実結に避けられていることに
気付くのにすら時間が掛かったと思う。
ご当地キャラを集めるのが趣味の実結に
『長崎あおすけ』を見せても
「いらない」と言われて
お土産は食べ物しか買わなかった。
「珍しいな(笑)」と笑う俺には
至るところにあった嘘の中から
悲痛に叫ぶSOSを無視してた。
元々メールや電話も少ない方だったし
内容が素っ気ないのもいつもの事で
自分の仕事が忙しくて
さほど気に留めていなかった。
夏までに今抱えてる案件を終わらせたら
次の大きな仕事のメイン担当にすると
神谷さんから言われた。
ようやく巡って来たビッグチャンスに
一人で浮かれまくっていた。
社内でプログラムの修正を繰り返す。
バグチェックのための入力作業をしていると
横でサヤカが無遠慮に溜息をついた。
「はああ……」
さっきから何回も溜息ついて
コイツわざとか……?!
「岸谷さんどないしたん? 派手に溜息なんかついて何か分からん事あるん?」
カチャカチャ手を止めずに聞いた。
「……西川さんはバツイチの女ってどう思います?」
「んー、バツイチねぇ……。って、はあ? えっ? 何? うわ、間違えて"batsuichi"って打ってもーたわ!」
仕事と全然関係ないやん!
「あ、すみません(汗)」
慌てて入力し直す。
「えっ? 岸谷さんてバツイチなん?」
「ええ」
意外やな。
結婚したら離婚とかしなさそうやのに。
「子供はおるん?」
「いえ」
「ほな別に関係ないんちゃう?」
当人同士では大した問題じゃないやろ。
「西川さんて彼女います?」
「おるよ」
「もし彼女がバツイチだってカミングアウトして来たらどうします?」
「んー、どうやろ? 俺は別に気にせーへんけどなぁ」
「……私の彼氏はまだ20代前半なんです。受け止めてくれますかね?」
ええっ?!
このタヌキの彼氏が年下?!
「彼氏わっか! 岸谷さんヤリ手やなぁ。うーん、20歳やそこらで結婚とか離婚とかピンとけーへんのちゃう? ……あっ、また間違えた!」
彼氏は熟女趣味なんか?!
コイツはどう見たって年相応か
それより上に感じるんやけど……。
ついに手を止めて考えた。
うん。バツイチでも不思議ちゃうな。
いや、待てよ。
結婚してた事実にビックリするんじゃ……。
いや、まあ愛があれば?
待てよ。
もしかして結婚詐欺とかちゃうよな?
数秒間グルグル思考が巡って固まった。
「もういいです。ありがとうございます……」
サヤカが小さく言った。
縮こまって元気をなくしている。
それくらいで嫌になるような相手なら
願い下げにしたったらええねん。
そんな事は言わんでもわかるか。
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