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1 Sな彼女とドSな彼
「紀樹は仕事と私とどっちが大事なの?!」
付き合って二年目になる彼女の実結は
黒目がちな瞳で紀樹を睨みつけた。
(比べようなんかないやろ……)
半年前に同じ言葉をぶつけられた時には
バカ正直にそう答えた。
感情で物事を考える女の正論に対して
男の理論など何の役にも立たない。
『大切なことは正しいかどうかじゃない。相手の価値観を認めることなんだよ』
尊敬する上司の神谷さんは
仕事だけじゃなくて
生きる術を教えてくれた。
『嘘も方便。相手を思いやる優しい嘘は許されるようになってる。すべてを正直に言うだけが愛じゃない』
神谷さんの言葉を反芻しながら
俺のベッドで不機嫌なまま
隣に座ってる実結の手を握る。
「実結のが大事に決まってるやろ」
「嘘つき! バカ紀樹っっ!!」
振り払う手が段々強くなってる事は
似たような喧嘩を繰り返す度に
薄々と勘付いてた。
"私を大事にして"の意味が
"早く結婚して"と分かっていた。
結婚は起業して会社を軌道に乗せてから。
ずっと前から決めていた。
万が一の失敗を考えた時に
一緒に苦労してくれなんて
死んでも言えないに決まってる。
俺を信じて待っとけ。
なあ、実結?
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