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あほみたいに運命を信じてた俺が
実結と最後に会った日は
街路樹のハナミズキが満開で。
車の窓から見える
風に揺られている姿に
儚い夢を思い出す。
「いつかお家を建てたら庭に薄ピンクと白のハナミズキを一本ずつ並べて植えようね」
"樹は喧嘩しても離れられないからね"と
実結がクスクス笑う。
「そうやな」
ハナミズキを嬉しそうに見つめる実結を
そのササヤカな夢ごと抱きしめて
幸せにしてやりたいと本気で思ってた。
「紀樹は何を植えたい?」
俺は実結がいるだけで
心の中に花が咲き乱れて
幸せやねん。
なんて。
こっ恥ずかしいことは
胸にしまったまま
未来の庭を瞼の裏に描く。
「……バラ?」
植物と言われて一番に思い浮かんだのが
バラってだけやけど(笑)。
「紀樹のお母さんみたいに上手く育てられるかな~」
毎年うちの庭のバラは鮮やかに咲く。
「教えてもらえばいいんちゃう?」
娘のいない我が家の母親も
早く実結と結婚して欲しいと思ってる事は
言われなくても知っていた。
一年前には二人で描いていた遠い夢が
現実味を帯びてきた時には
気軽に口にできない話題になってたっけな。
「ゆっくり会うんは旅行以来やな。どこ行きたい?」
「海が見たい」
実結は一番近くの浜辺を指定した。
車の窓を開けたまま海岸通りを走っていると
どこからかウグイスの鳴き声が聞こえる。
「ホッケキョ♪ケキョ♪」
下っ手くそやな(笑)。
ふと実結が黙ったままやな、と思う。
「どうしたん?」
「えっ?」
「珍しく静かやなと思って」
「珍しくは余計でしょ」
腹でも痛いんか?なんて
見当違いのことを思っていた。
俺は実結のことを
ほんまにほんまに
何にもわかってなかったんやな。
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