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目にいっぱいの涙をためて
「嫌い」「別れる」と言われても
「はい、そーですか」とは聞けんやろ?
「実結……?」
抱きしめようとすると
実結は力強く胸を押し返した。
キスをしようとすると
顔を背けた。
数時間前には簡単に出来た事なのに。
その時の俺と今の俺とで
一体何が違うんやろう。
「もうやめて」
髪を撫でようとすると
身をすくめる。
体を寄せると
実結は避けるように立ち上がった。
「それじゃあ、サヨウナラ」
「話は終わってへんやろ」
手首をつかむと
実結はポケットから何かを取り出して
冷たい手で紀樹の手を握る。
「これは返すね」
手の平に温かい指輪を乗せられて
言葉を失った。
今日は最初からそのつもりで?
キスをねだった時も
何度も求めた時も
別れると決めてたってこと?
「実結……」
「ありがとう、紀樹。じゃあね」
ありがとうって何やねん。
でも
引き止める言葉は見つからなかった。
実結の後ろ姿を見送る。
別れ際はしつこいくらいに振り返る実結が
一度も振り返らずに歩いて行く。
悪い夢を見てるようで現実感がない。
残された指輪を握り締めた。
遊んでた頃の俺を知ってる実結に
女に指輪を贈ったのは初めてって言ったら
嘘だって笑い飛ばしたよな。
嘘なわけないやろ。
生まれて初めて愛してるって思ったのは
お前だけなんやから。
鈍器で頭を殴られたみたいに
意識が遠のいた。
夜ってこんな暗かったっけ?
光はどこにあるんやろ?
もう……何も見えない。
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