1 Sな彼女とドSな彼

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数日間の記憶はない。 それでも仕事は忙しくて 泊まり込みや徹夜の日もあった。 傷心は多忙では癒せないけれど 何もしてないよりはマシだった。 瞼を閉じれば実結の笑った顔が浮かぶ。 会いたいと思っても 声を聞きたいと思っても 電話すら出来ない。 「西川さん、大丈夫ですか?」 「あー……。寝不足なだけやから」 「そうですか。それよりちょっと聞いてくれます?」 サヤカの惚気話を無関心に聞き流す。 頭がガンガンするなー……。 ようやく一段落したし 今日はもう帰ろかな。 「西川さーん」 離れた席から山田が呼ぶ。 今度は何やねん。 「なに?」 「新人連れて定期点検に行くんで、訪問する会社のリスト見てもらっていいですか?」 得意先のコンピュータのチェックを兼ねて 新人紹介のための挨拶廻り。 「いいんちゃう?」 画面に映し出されたリストを ちらっと見て答えた。 「ちゃんと見ました(笑)?」 チラッとは見たわ。 「今トラブルになってるトコないから大丈夫やって……」 多分。 もう一度画面に目をやる。 「あっ!」 つい声を上げた。 「どうしたんですか?」 「俺も一緒に行く」 一番上には実結の働いている会社名が 示されていた。 「その格好で行くつもりですか?」 社外に出る予定のない日は私服出勤。 さすがにデニムはマズイな。 「いっぺん帰って着替えて来るから一時に現地集合な。玄関前で待ってて」 何がしたかったわけじゃない。 ただ実結に会いたかった。 初めて見た時にこの子やなって思った。 それも本当。 今更そんな事を言ったら 実結はきっと怒るんやろな。
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