4 潜入

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気が付けば、夢の世界の『社』に居る。 夢の世界、その色合いは宵闇のようなものだ。 それは、光を吸い込むような漆黒に満たされた世界だ。 けれども、その世界に存在するものの貌は、漆黒の闇の中からくっきりと浮かび上がってくるように見える。 その存在自体が放つ光といったものなのだろうか、それが闇の中にその存在をくっきりとその浮かび上がらせているのだ。 夢の世界の『社』、それは『猫泥棒』の本部のようなものだ。 矢鱈と古びているように見え時があれば、昨日にでも建てられたかのようにも見える時もある。その見た目には余り意味は無いのだろう。 『社』には拝殿もあれば、幾つかの訓練場たる建物もある。 今宵、『社』に集った「猫泥棒」は、柴犬とリスザル、あと、インコだった。 「猫泥棒」は謂わば固定メンバーである人間と柴犬と、ほぼ毎回入れ替えられる二種類の動物とで構成される。 前回の満月の夜は、ハムスターとカメレオンだった。 如何せん小さいので、ハムスターは私の肩に、カメレオンは柴犬の背に載せて行った。 ハムスターには耳元にてヒマワリの種の味わいに関する蘊蓄を延々と語られたものだった。 カメレオンは柴犬の背中にずっとしがみついていた所為か、その晩の『猫泥棒』を終える頃には、体色が緑から柴犬の毛の色である明るい茶色になってしまっており、皆で大笑いしたものだった。 さて、今夜も頑張ろうかと皆で声を掛け合う。 柴犬がスタスタと私の足下に歩み寄り、期待に満ちた表情で私の顔を見上げる。 早速、柴犬をナデナデする。 背中を撫で、その後に首の回り、そして頭の順でナデナデする。 今夜はいつもより念入りに撫でてあげたためか、彼は大いに喜んでいた。 また、リスザルを私の体を伝わせて遊ばせる。 今夜のインコは触られることは苦手なそうなので、しばしお喋りに興じる インコの家では去年から猫を飼っているとのことだ。 とても仲が良くて、よく一緒にお昼寝をしているらしい。 この夢の世界の中では、人だろうが柴犬だろうが、その他の動物だろうが、「言葉」を交わして会話することができる。だから、いつも一緒に『猫泥棒』をする柴犬とは仲良く世間話もするし、交替で『猫泥棒』に加わる動物たちとも楽しく話をする。 今の柴犬とも、そして先代の柴犬とも、色んな話をしたものだ。 家族のこと、一緒に暮らしている猫のこと、そして、好きな食べ物のことなど。 一頻り遊んだりお喋りをした後に、皆で『猫夢殿』に向けて出発する。 柴犬が何か歌ってくれと言うので、今宵のメンバーに言寄せて『桃太郎』を歌うことにする。 これから向かうのは鬼ヶ島などでなく『猫夢殿』であり、そこで待ち受けるのは鬼なのでなく、どこか間の抜けた、そしてどこか愛嬌のある猫たちなのだが。
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