4 潜入

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さて、『猫夢殿』に辿り着いた我々『猫泥棒』一行は、『年貢米』が納められている場所を探す。探すと言っても手当たり次第に『猫夢殿』のあちこちを見て回る、などといったことをする訳ではない。気持ち良いと感じる方向に行く、それだけで良いのだ。 猫を撫でる時の心地よさ、チュールを無我夢中で貪る猫を見つめる時の愛おしさ、悲しい気持ちを抱えているときに猫が寄り添って来てくれた時のじんわりとした嬉しさ。 猫と関わるときの幸せな気持ち、それが感じられる方向に行く。それだけで良いのだ。 今宵も首尾良く『年貢米』が納められている場所を見つけることが出来た。 『年貢米』は、丁度「鰹節」のような形と大きさをしている。猫が思い浮かべる幸せのイメージということなのだろう。 ただ、その色合いは「鰹節」とは異なる。 透明がかった、金色の水晶のような色合いであり、仄かに金色の光を放っている。 そして、じんわりとした暖かさもまた感じられる。 『猫蟲』たちが現世から運んできた『年貢米』、その大きさは精々、米粒程度のものだ。それを『猫夢殿』の下働きの猫たちが受け取り集め、『猫坩堝(ねこるつぼ)』で精製し、そして、私たちが目にしている鰹節のような形・大きさの『年貢米』に仕上げるのだ。 そんな『年貢米』が、広々とした棚にズラリと収められている様は、まさしく壮観だ。 それぞれの『年貢米』が放つ、優しげに揺らめく金色の光を見ていると、我が家の飼い猫のヒカリが、撫でられる時のゴロゴロと喉を鳴らす様や、猫じゃらしを無心で追い掛ける時の様子が頭に浮かぶような心持ちだ。 柴犬も、リスザルも、そしてインコも、それぞれの柔らかな微笑みを浮かべ、棚に収められた『年貢米』を、そしてそれらが放つ、揺らぐような優しく暖かな金色の光に見入っている。 それぞれが、それぞれの猫との幸せな関わりを思い出しているのだろう。 一頻り、『年貢米』と、それが発する光に見入ったところで、『猫泥棒』としての仕事に取りかかる。 仕事と言っても至極簡単だ。 最初は、柴犬の番だ。 私は、棚に納められた『年貢米』を取り出す。 そして、それを柴犬の体に押し付ける。 すると、鰹節のようなその『年貢米』は、柴犬の体に音も無く吸い込まれていく。 まるで、熱せられた鉄板に押し当てられた氷が、音も無くその姿を失っていくかのように。 柴犬に一頻り『年貢米』を吸い込ませ、続いてリスザルとインコにも『年貢米』を吸い込ませる。 そして、最後に私自身の体へと『年貢米』を押し当てて吸い込ませる。 『年貢米』が体へと吸い込まれる感覚、それは心地良いようであり、そしてくすぐったい感もまたあるものだ。様々な場所の様々な猫たちが、人との関わりの中で得たふんわりとした喜び、それが心の中にじんわりと染み渡ってくるような感じもするし、猫のひげに頬をツンツン触られている、そんな微妙な感覚もまたするものだ。撫でられている猫が、その撫でる手にちょっかいを出しながらも、その手に身を委ねている、そんな感じもまた受けるものだ。
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