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さて、この下働きの猫たちには、そろそろ道をあけて貰わないと。
私は下働きの猫たちの真上に目を凝らす。
すると、彼らが現世にてどのような生活を送っているのかが、まるで映画を見ているかのように、その頭上に映し出される。
どんな食べ物が好きなのか、お気に入りのお昼寝の場所は何処なのか、どんな遊びが好きなのか等々。
私は下働きの猫たちに言葉を放つ。
まずは茶トラの猫からだ。
「茶トラくん、君が私たちをこの場所から通してくれないと、お母さんから朝昼晩に食べさせて貰っているチュールが、近くのホームセンターで売り切れになってしまって、1週間は食べられなくなっちゃうぞ!」
茶トラの猫はギョッとした表情を浮かべ、私のほうを見る。
私が発した言葉を打ち消そうと思ったのだろう、その口を開き、動かそうとする。
けれども、諦めたようにその口を閉じる。
そして、項垂れた様子となり、トボトボとその場から離れて行く。
そう、茶トラの猫は、私が発した言葉を打ち消すことは出来ないのだ。
茶トラの猫が私の言葉を打ち消せない理由、それは、私の発した言葉の力が、彼の出しうるそれを上回っているからだ。
柴犬などならば訓練したとしても、精々、下働きの猫の『呪い』を打ち消す程度の言葉の力しか得られない。
けれども、資質を持つ人間が『社』で訓練したならば、相応の力を得ることが出来る。
下働きの猫などが束になってかかってきても相手にならない程度の力は。
茶トラに続き、他の下働きの猫たちに対しても、彼らの普段の生活の様子を探り、道をあけなければ彼らが悲しく思うであろうことが起きるとの意味合いの言葉を投げかける。
下働きの猫たちは、私の言葉を打ち消すことが出来ず、ションボリした態度でその場から離れていく。
そして、離れた場所に並んで座り、悲しそうな目つきで私の方を見ている。
猫たちの悲しそうな様子を目の当たりにした私は居たたまれなくなり、彼らに近寄る。
しょげ返った様子の猫たちに手を伸ばし、そして順番にナデナデする。
柴犬やリスザル、そしてインコもやって来て、彼らなりの方法でションボリした猫たちを元気付けようとする。
人も、そして動物たちも、『猫泥棒』に選ばれる者達は、皆、猫が大好きなのだ。元気を無くしている猫たちを見かけたら放っておけないのだ。
そうこうしているうちに、猫たちは段々とご機嫌となる。
ある猫は私のナデナデに対して喉をゴロゴロと鳴らして甘えたり、はたまた他の猫たちは、柴犬やリスザルとじゃれ合って遊んだりしている。
そして、猫たちは「それじゃ、またね。」などと言い、尻尾を振りつつ機嫌良く何処かへと去って行く。
私たちも手や尻尾などを振って別れを告げる。
無事にこの場を切り抜けられたことの安堵感、そして、やむを得ないとは言え、猫たちに少し可哀想なことをしてしまったことへの申し訳なさとがじんわりと胸へと込み上げる。
何はともあれ、この夢の世界を抜け出て、『猫泥棒』としての役割を果たさなければならない。
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