2 説明

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皆さん、猫って色々と過剰だと思いません? 連中はホントに過剰です。 まず、可愛過ぎる。 連中の可愛さは過剰です。 はたまた何かというと食べ物を寄越せと言ってくる。 そしてまた、甘えん坊が過ぎる。 もうね、猫はともかく欲深くて 飽き足ることを知らない。 兎にも角にも、猫は過剰なんです。 何故、猫はかくも過剰なのか、 何故に、猫は斯くも多くのものを求めるのか、 それについて説明しますね。 さて、皆さん 皆さんは、「三尸(さんし)」ってご存知でしょうか? 道教の教えの中に出てくる、人に宿ると言われている「(むし)」ですね。 その「三尸(さんし)」が何をしているかと言うと、 人の為した悪事をメモっているんですよ。 そして、庚申の夜に人の体から抜け出して天界へと行き、人の為した悪事を天帝に報告しちゃうんです。 つまり、「チクり虫」ってやつです。 嫌な奴らですね、「三尸(さんし)」。 でも怖い奴らですね、「三尸(さんし)」。 勿論、この「三尸(さんし)」っては事実なんですが、 その手の仕組みって、 何も人間様だけの専売特許ではないんです。 猫にも同じような仕組みがあるんですよ、猫にもね。 ただ、猫の場合、少しばかり勝手が違う。 猫の場合、「(むし)」が抜け出るのは人間のように庚申(こうしん)の夜だけじゃない。 庚申(こうしん)の夜って基本、年に6回なんですが、猫はそんなレベルじゃない。 猫の場合、それは寝る度なんですよ。 猫って何かあれば寝てるでしょ? あの度に「(むし)」が抜け出ているんですよ。 むしろ「(むし)」が抜け出るために猫が寝てると言っても過言ではない。 そして、何のために「(むし)」が抜け出ているかというと、 「三尸(さんし)」みたいに人間の悪行をチクるためじゃない。 猫が得たものを、『猫世界』に持って行くためなんですよ。 猫が得たものとは、って? それは、起きている間に猫が得た幸せってとこでしょうかね? 日だまりの暖かさだったり、 獲物を捕らえた時の快感だったり、 仲間の猫とじゃれ合った時の楽しさだったり。 そして、人間から得た様々なものだったりする。 人間から撫でられた心地良さだったり、 人間から名を呼ばれた嬉しさだったり、 人間の視線を独占する快感だったり、 人間と遊んで貰った楽しさだったり。 はたまた人間から貰った餌の美味しさだったり。 幸せって何かについての定義を正確に表現するのは難しいんですが、猫と人間との関係性で言うならば、「年貢米」みたいなものですね。 猫は、人間との関わりの中で、興味や関心、そしてお世話といった形で「年貢米」を人間から徴収する訳です。 その「年貢米」は、勿論、その猫自身の幸せのためにも消費される訳ですが、 猫が得た「年貢米」って、実は、その猫自身が消費する分よりも結構多いんです。 「(むし)」はですね、その余剰の「年貢米」を、猫が寝ている間に、猫の夢が開く通路である『猫街道』を通って、『猫世界』に持って行っているんですよ。 『猫世界』とは何かって? それは、猫の魂の帰る場所であり、 猫の運命を司る審判所みたいなものですね。 人間で言うところの、『天国』と『地獄』が一緒になったような場所と考えて貰えばいいです。 『猫世界』を司る、猫大御神(ねこおおみかみ)の元、様々な官位を授かった猫の神様達、そして神仙達が住まわれているようです。 あ、勿論ですが、『猫世界』は、人間のとっての『天国』とも繋がっています。 猫の「(むし)」、それは「猫蟲」って言います。 そのまんまですね。 「猫蟲」の見た目はですね、皆さん良くご存知の「猫バス」を5杯くらいに細長くして、そして、それをうんと小さくしたような感じです。 個体差もあるので一概には言えませんが。その体長は、概ね人間の小指の先くらいだと言われています。 その「猫蟲」は、猫がお腹一杯になったり、あるいは人間とタップリ遊んで貰ったりして幸せ気分で一杯になって眠りにつき、そして幸せな夢に落ちたら、猫の見ているその夢から『猫街道』に入り、それを伝って『猫世界』に「年貢米」をエッサホイサと運んでいく訳です。 まぁ、厳密には『猫世界』に直接行くのではなく、その途中にある『猫夢殿』に「年貢米」を預ける訳なんですが。 夢っていうのは、脳の情報の整理って現実的・物理的な役割もありますけど、常世や異世界へのアクセスポイントって役割もまたありますからね。 「猫蟲」が『猫世界』に「年貢米」を運んでいって何をするかって? 厳密にはよく分かっていませんけれども、一番の目的は『猫世界』の維持だと言われています。 猫の神様たちだって、その存在を維持するには何らかのエネルギーは必要ですし、猫たちの魂を輪廻させることにもエネルギーは必要ですからね。 あと、現世に生きる恵まれない猫たちに分配もされているみたいです。 野良猫とか、あるいは飼われていても、あんまり人間に可愛がられず、寂しい思いをしている猫とか。 「年貢米」は、中間貯蔵施設である『猫夢殿』にて行き先が配分されているらしいです。 これは『猫世界』に送る分とか、現世の寂しい猫に仕送りする分とか。 現世の寂しい猫を担当している「猫蟲」はですね、『猫夢殿』で「年貢米」を受け取って、それを寂しい猫のところに持ち帰るんです。 そうしたら、寂しい猫はその「年貢米」を消費して、幸せな夢を見ることが出来る。 そして、目覚めた時にちょっと幸せな気持ちになれるんです。 現実は辛いけれども、頑張って生きていこう、って。 よく出来たシステムだなって思います。 猫って、基本的に優しいんですよ。 あ、「年貢米」って言いましたけど、これの見た目って「米」じゃないですからね。 その見た目は、琥珀(こはく)のようにキラキラしている鰹節のようだと言われています。 ただ、問題なのは、その「年貢米」の貯蔵がけっこう膨大になってしまうことなんですよ。 猫って、基本的に計算が苦手なんですよ。 勿論、『猫世界』に住まう猫の神様達は優秀ですから、ちゃんと計算が出来ます。 『猫世界』の維持に必要な「年貢米」がどれだけ必要か分かっているから、必要な分しか『猫夢殿』に請求しません。 でも、『猫夢殿』で「猫蟲」をコントロールする担当の猫神仙達は、猫神様たちより頭が良くないから、あんまり計算ができない。 あ、世界中の「猫蟲」は、『猫夢殿』の猫神仙達の指示で動いています。 『猫夢殿』は、謂わば税務署みたいなものです。 そして、「猫蟲」は、徴税請負人みたいなものですね。 『猫夢殿』で「猫蟲」をコントロールする担当の猫神仙達が、必要な分だけ人間から「年貢米」を徴収し、必要な分だけ『猫夢殿』に持ってくるよう「猫蟲」に指示すればいいんですけど、彼らは計算が苦手だから、どうしても徴収し過ぎてしまうんです。 だから、『猫夢殿』の「年貢米」貯蔵庫は、必要以上に「年貢米」を蓄えてしまっています。 繰り返しになりますが、『猫夢殿』の「猫蟲」をコントロールする担当の猫神仙達って計算が苦手だから、「猫蟲」たちに「年貢米」を必要以上に集めて来るように指示してしまう。 すると「猫蟲」たちは、担当してる猫たちに、もっと人間に甘えるよう働き掛けてしまう。 とすると、皆さんの周りの猫たちは、ともすればやり過ぎなくらいに「構ってちゃん」になってしまい、皆さんから「年貢米」をたくさん取り立ててしまう訳なんです。 人に優しくして貰い、 幸せを感じるといった形で、ね。 つまり、我々は、税金を取られ過ぎているようなものなんです。 だからです、 我々は、奪われ過ぎたものを取り戻さなくちゃならないんです。 あ、私自身、猫は大好きですよ。 【猫泥棒 新着任者教育オリエンテーション講義】
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