6 疾走

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銀色の虹の橋を駆ける私たち『猫泥棒』 そんな我々を、鏡のような満月が照らし出す。 そんな我々へ、驟雨のように銀の光が降り注ぐ。 銀の光を浴びながら虹の月の上を駆ける、我々『猫泥棒』 その我々が駆け抜けた後には、 金色(こんじき)の粒子が残されている。 驟雨のように降り注ぐ月の光が、 我々の体から溶け出させたかのように。 我々が駆けた後に残された金色(こんじき)の粒子 それらは夜空へと拡がって、 そして、地上へと降り注いでいく。 金色(こんじき)の粒子は、 銀の光に煽られながら、 夜風に散らされながら、 地上へと降り注いでいく。 ゆらりゆるりと地上へと降り注いでいく。 金色(こんじき)の粒子は、 眠りに就いている小さき者達の元へと辿り着く。 寂しさに震える、 悲しみに震える、 不安に震える小さき者達への元へと辿り着く。 そして、彼らに夢を見させる。 温もりと安らぎに満ちた、幸せな夢を。 私から溶け出した金色(こんじき)の粒子は、 人の幼子たちの元へと辿り着く。 温もりに飢え、 優しさに飢え、 不安に涙しながら眠りに就いた 寂しき幼子たちの元へと。 金色(こんじき)の粒子は、 そんな幼子たちに満ち足りた夢を見させる。 温もりに包まれ、 優しさに抱かれ、 安らぎに満ちた幸せな一時の夢を。 目覚めた時、その幼子たちは、 その夢のことを覚えてはいないだろう。 けれども、その夢はその幼子たちの心を暖めている。 その温もりは、 次の日を頑張って生きていこうと励ます力となる。 柴犬から溶け出した金色(こんじき)の粒子は、 子犬たちの元へと辿り着く。 愛されず、 抱きしめられず、 寄る辺無き寂しき子犬たちの元へと。 金色(こんじき)の粒子は、 そんな子犬たちに暖かな夢を見させる。 愛され、 抱きしめられ、 帰るべき場所の有る温もりに満ちた一時の夢を。 目覚めた時、その子犬たちは、 その夢のことを覚えてはいないだろう。 けれども、その夢はその子犬たちの心を暖めている。 その温もりは、 次の日を生き抜いていくための力となる。 リスザルから溶け出した金色(こんじき)の粒子は、 寂しき小猿たちの心を暖め、 次の日を生きていくための力を与える。 インコから溶け出した金色(こんじき)の粒子は、 寂しき小鳥たちの心を暖め、 次の日を生きていくための力を与える。 猫たちが人から受け取り、 そして『猫蟲』たちが集めた、 優しさの結晶である『年貢米』 本来は、寂しい子猫たちに分け与えられるはずの『年貢米』 それが人や柴犬、リスザルやインコの『猫泥棒』に取り込まれ、満月の夜、夢と現世(うつしよ)の境界に在る虹の橋の上にて、鏡のような銀色の満月が放つ銀の光を浴びることで、金色(こんじき)の粒子となり、幼子や子犬などの小さき者達の元へと届けられるのだ。 そして、寂しき小さな者達に、温もりと安らぎに満ちた幸せな夢を見させ、明日を生きる力を与えるのだ。 猫たちが集めた『年貢米』、それらは本来、猫だけのものなのだ。 けれども、猫のことが大好きな『猫泥棒』に対しては、その身に溶け込まさせることを許すのだ。 『猫泥棒』は走る。 夜空に架かる、夢と現世(うつしよ)の狭間に在る銀色の虹色の橋の上を。 鏡のような満月が放つ、銀の光を浴びながら。
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