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あきのりさん以外の『猫泥棒』たちは、
みんな虹の橋から夜空へと降りていった。
きっと今頃は現世に戻って、
それぞれの夢の中に居るんだと思う。
あきのりさんと僕は、
もうだいぶ細くなった虹の橋の上に腰掛けて、
一緒に夜空を見上げている。
銀の光を浴びながら、僕たちはポツポツと話とする。
僕は、『猫泥棒』を引退した後の話をする。
僕が『猫泥棒』を引退してから、もう六年が過ぎた。
六年の間には、色んなことがあったんだ。
安永さんちの子どもだったお兄ちゃんと美佐子ちゃんは、もう随分大きくなっちゃって「しゅうしょく」し、家を出て行っちゃった。
お家に帰ってくるのは時々になっちゃった。
一緒に暮らしていたキジ猫のヤヨイは、
去年に「猫世界」へと旅立って行ったんだ。
あきのりさんは、今晩が最後の『猫泥棒』だった。
今度の満月の夜に、次の『猫泥棒』へとその役目を引き継いで、『猫泥棒』を引退するそうだ。
『猫泥棒』を引退したら、『猫泥棒』に関する記憶の一切を失ってしまう。
それも仕方無いんだと思う。
それは、生きている者が知るべきではない話だから。
『猫蟲』の存在も、「夢の世界」のことも、『猫泥棒』の役目も、そして、夢の世界と現世との、「幸せ」に関する仕組みの話も。
あきのりさんは『猫男爵』の話をした。
今夜は『猫男爵』を撫でさせてもらったんだって。
あきのりさん、凄く嬉しそうだった。
でも、寂しそうだった。
『猫男爵』と会うのも、今夜が最後だったから。
『猫男爵』との思い出も、今度の満月の晩に次の『猫泥棒』へとその役目を引き継いだら、全て失ってしまうから。
あきのりさんと『猫男爵』、そして、『猫泥棒』の話をした。
『猫泥棒』のことは、三日前に思い出したんだ。
それまで『猫泥棒』のことはずっと忘れていて、
普通の柴犬として過ごしていたけど。
久々に思い出したら、『猫泥棒』だった時よりも、
色んなことが分かるようになっていた。
そのことを、あきのりさんに話す。
本当は、話しちゃいけない事なんだと思う。
でも、あきのりさんは、もう『猫泥棒』を引退しちゃうから許されると思う。
「『猫男爵』って、
『猫泥棒』の創始者の一人なんだよ。」
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