3 襲名

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ある満月の晩のこと。 それは「とっくん」を始めてから一年くらい経った頃だったと思う。 おじさんはこう言った。 「ツヨシ君、よく「とっくん」を頑張ったね。そろそろ「ねこどろぼう」になっても大丈夫そうだ。」 そして、僕はおじさんに連れられて「わしつ」を出た。 「わしつ」の外は、安永家のみんなと「はつもうで」で行く「じんじゃ」みたいな感じだった。でも、「とりい」は無かった。 そのことをおじさんに聞いたら、おじさんは僕をヨシヨシしてからこう言った。 「ツヨシ君、よく分かったね。ここは神社みたいな場所なんだよ。神様の居場所とつながっているんだ。ただ、夢の世界自体が神様のものだから、他の場所と区分する必要は無いんだ。だから、神様の場所とそれ以外の場所との境目を示す鳥居は無いんだよ。」と。 そして、僕はおじさんに連れられて「じんじゃ」の中でも一番古そうな建物の前に行った。 それは、不思議な建物だった。 見た目はそんなに大きくないんだけど、でも、すごく大きいように感じられた。 がらんとした、なんにも無い建物の中には、奥の方に灯りが二つだけ点いていて、そして、その間に丸い鏡が一つだけ飾られていた。 建物の中の灯りは、美佐子ちゃんのお誕生日のケーキに乗っていた「ろうそく」みたいだった。見た目は寂しげな光だけど、でも、お日さまの光みたいにすごく暖かに思えたし、そして、虹みたいにいろんな色を放っているような感じがした。 建物の中には誰もいなかった。 でも、建物いっぱいに誰かがいる、そんな感じがした。 音も何一つ聞こえなかった。 でも、音にならない静かなざわめき、そして笛や太鼓などの楽しげな音が聞こえてくるような感じだった。 音にならないざわめき、そして楽器の音色、それはうるさいって訳じゃなくて、聞いているだけで、なんだか元気が出てきそうな感じがしたし、そして、励まされているような気持ちもしてきた。 光は「ろうそく」が二つだけだし、建物の中には誰も居ないし、そして音も全然しないけれども、たくさんの人がその場にいて、賑やかで楽しい音色に満ちていて、そして、たくさんのお祝いの言葉を掛けてくれている、そんな気持ちだった。
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