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4 潜入
満月の夜、それが私たち『猫泥棒』出動の刻だ。
妻と二人だけの夕食を終えた私は、普段より早い時間に寝室へと向かう。
私が満月の晩に早く床に就くことに、妻はもう慣れっこになっている。
三毛猫のヒカリは、私たちより一足早く食事を済ませ、リビングのソファの上で気持ち良さそうな寝息を立てていた。
つい先程、『猫蟲』が出て行ったようだ。
この家も、もう随分と静かになってしまった。
枕元の灯りを落とす。
ベッドに体を横たえ、そして、目を閉じる。
『猫泥棒』となって、もう随分と経つものだ。
これまでの満月の夜のことが脳裏を過ぎる。
満月の夜毎の、最早数えきれぬ「猫夢殿」への旅路のこと。
共に「猫泥棒」を務めてきた犬たち、鳥や猿、ハ虫類などの姿のこと。
そして、「猫泥棒」の度に妙な邪魔立てをしてくる例の存在のこと。
その存在の愛くるしくもある姿が、彼の不遜な口調と共に脳裏へと浮かぶ。
どの顔ぶれも、今夜は懐かしく思われてしまう。
心に湧き上がる郷愁めいた気持ちは、やがて泡が消えるようにその貌を薄れさせていく。
私の意識も何時しかその姿を闇の中へと発散させていく。
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