笑える薬

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 宮沢賢治がもし芸術論を書いたとしたら述べるであろうことを中原中也が想像してこう書いた。「面白いから笑うので、笑うので面白いのではない。面白い限りでは寧ろ人は苦虫を潰した顔をする。やがてにっこりするのだが、苦虫潰した所が芸術で、にっこりする所は既に生活であるというようなことが言える。  人がもし無限に面白かったら笑う暇はない。面白さが一先ず限界に達するから人は笑うのだ。面白さがその限界に達すること遅ければ遅いだけ芸術家は豊富である。」  要するに芸術家は芸術度が増せば増す程、面白味を深く感じ、苦虫を潰した顔をしがちだが、一般人は凡俗であればある程、面白味を浅くしか感じられず、へらへらしがちだと言うのである。だから、あの人はいつもにこにこしていていい人だと言われるような人間は如何にも生活に適した凡人であり俗人である。逆に、あの人はいつも苦虫を潰した顔をしていて愛想が悪いこと夥しい嫌な奴だと言われるような人間は如何にも芸術家である。斯様に芸術家は凡人俗人に誤解されるのだが、芸術家は凡人俗人より遥かに感受性鋭く感性豊かだから何でも深く味わい、その分、人生を楽しんでいる。苦虫を潰した顔をしながら面白味を噛み締めているのだ。
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