うちに毛利元就がいます

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 いつものようにマットレスに布団を敷いただけのベッドから起き上がると、目の前にぼんやりと武士が立っている姿が見えた。  なぜ武士だと思ったかというと、直垂のような衣服を身につけていたからだが、ずいぶんみすぼらしく見えた。その顔は凛々しく、それなのにどこかあどけない。  たぶん年齢は十代半ば。もしかしたら十代前半もありえるかもしれない。どちらにせよかなり年下だった。  時代劇でいったら総髪という髪型をしており、頭を剃り上げないで長い髪を一本に束ねていた。ポニーテールを爆発させたみたいに、情熱的な髪型をしている。  まだ夢を見ているのだろう。昨夜、光源氏(ひかるげんじ)が部屋にやってくるというドラマを見たせいで、私も今似たような状況の夢の中にいるのだ。そう思ったおかげで何の動揺もなく彼に尋ねることができた。 「どなたですか」  青年武士は目をぎょろんとさせながらも丁寧に答えた。 「拙者、毛利元就(もうりもとなり)と申す」 「……毛利元就?」 「いかにも」  日本史は選択していなかったが名前くらいは聞いたことがあった。広島に住んでいるので知っていて当然といえば当然だが、さほど詳しくはない。  さすがにドラマで見た光源氏のような華は全く感じられなかった。たくさんの女性と浮名を流した光源氏はさぞ美しかっただろうに、この元就は貧相だった。  元就は中国地方全土を統治したが、中国地方というのが微妙すぎるし、どうせなら関東とか関西にしてほしかったと思う。さらに、天下取りなどには興味もなく、中国地方周辺で満足していたとも聞く。ドラマのように上手くいかないのが現実で、とにもかくにも地味すぎる。
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