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「元就……っていうことはもう元服してますよね?」
「まもなくにございまする」
「元服してないのに名前は元就なんですか?」
「……今後のために名乗る練習をしたまでのことじゃ」
元就は眉間にシワを寄せ、急にむすっと不機嫌になった。
「へぇー、前もって名前ってわかってるものなんですね」
不機嫌な顔が何とも言いようのないかわいらしさで、私は笑いながら答えた。
「そなたの名は何と申すのじゃ」
「名乗るほどのものではないので」
「ならばもう一つ尋ねたい……ここは一体どこじゃ」
少し考えてからさらっと答える。
「まあ、一言でいえば夢の中ですね」
「夢の中?」
「私は眠りから覚めたと思っていたら、あなた、つまり元就さんが目の前にいました。だからまだ夢の中なんだと思います」
「なるほど。確かに拙者も昼寝して目覚めたらここにおった。我々はまだ夢の中で、眠っているということだな?」
「そういうことです」
元就は納得したようだった。
「ではここはどこの国じゃ?」
「国?国……日本?いや、広島ですかね」
「広島?どこじゃそれは」
「うーん、安芸……かな」
「安芸?ならば拙者の住む国ではないか!どうしてこうも違うのだ」
部屋を見渡してから、窓の外に目を向ける。窓のカーテンはいつの間にか半分開けられ、ちょうど車が走っていく影が見えた。
「部屋の中も外も見たことのないものばかりで、西洋かと思っておったところじゃ」
「西洋ではないんですよねぇ」
「ではどういうことだ」
私はまたしばらく考える。夢の中だし、そのままのことを教えていいのではないだろうか。
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