第三章・おにいさんの乱入

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 自分から謝ろうと思っていたのに、先に壱琉から切り出されて、チカの口がポカンと開いた。唯我独尊、傍若無人。殊勝な言動がとことん似合わない壱琉が、とても言いにくそうにだけれど、先週のことを謝ってくれた。充分だ。 「ううん、チカも試合の日にちをちゃんと説明しなかったもんね。ごめんね?」  ふたりが一週間に及ぶ喧嘩をすることになった理由は、学校行事のためにチカが壱琉の誘いをことごとく断っていたから。 『チカ、お友だちとやくそくしてるの』 『またかよ。友だちとの約束を、俺より優先すんな』 『バカバカ! お友だちとのやくそくは、大事なんだよ? そんなこともわかんないいっちゃんなんか知らない! もうチカに話しかけないで! うわーんっ!』  『仕事と私、どっちが大事なの?』を、高校三年生が小学三年生相手に本気でかましたことが原因なのだから、壱琉が自身の幼稚さを殊勝に謝罪して当たり前。なのだが、外見と同じく中身も天使なチカは、朴訥な口調での『悪かった』で全て水に流してしまう。 「俺も今までの自分を深く反省した。これからは、お前の学校行事の予定は全て把握する。行事に関するプリントは全部、俺に見せろ。初等科のサイトも毎日チェックすることにしたぞ。同じ失敗は繰り返さない。今後は万全のスケジュール管理で臨む」 「え? プリント、ぜんぶ? えーと……うん、わかった。これからは、行事のプリントが配られたら一番にいっちゃんに見せるね」  少し違う方向に反省した気がしたが、素直なチカは、黒縁眼鏡の奥で昏い目を見せる相手に首を傾げつつも、こくんっと頷く。  春には大学生になってしまう壱琉が、それ以降も変わらずに自分と遊んでくれるつもりなのだと言ってくれているのが嬉しいから。 「いっちゃん。アイス屋さん、行こっ」 「おう」  取りあえず、心配していた仲直りは一日早くやり遂げられた。あとは、アイスを食べながら折り紙の謎を聞かせてもらおう。  美也と智穂に続いて壱琉に抱っこされたまま廊下に出たチカは、ひとりだけ抱っこで恥ずかしいと思いつつ、『おろして』とは言わない。  一週間ぶりの仲直りは、それくらい嬉しかった。  今日だけは、『もう小さな子じゃないんだよ』の強がりは封印だ。
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