第三章・おにいさんの乱入

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 初等科の教室に壱琉がいきなり現れたこと。いつだってガラが悪い壱琉だけど、今日は輪をかけて物騒な雰囲気で、現れるなり怒りを見せていたこと。その相手が、友だちの智穂だったことの驚きをどう言い表せばいいのか。  それから、どういうわけか、怒りの矛先は智穂本人じゃなく、自分が智穂にあげたチューリップの折り紙だとわかったこと。折り紙が気に入らないのかと思えば、美也にあげた桃の花はオッケーらしい。『桃の花なら無害だ』の意味がわからない。智穂も美也も幼稚舎の頃から壱琉とは顔見知りで、常にぶすっとしてる彼の前でもにこにこ出来るくらい性格が良いから、今日の壱琉の言動も気にしないだろうけど、自分は嫌だ。横暴な言動の理由を知りたい。  さらに、言いたいだけ言ってこれで全て解決したとばかりに『じゃあ俺に赤いチューリップを折ってくれ』と言われても、そもそも自分たちはまだ仲直りしてないんじゃない? と、ふと我に返ってしまった。思わず喧嘩してしまって以来、自分は一週間ずっとモヤモヤしてたのに、そんなことは何もなかったみたいに元凶の彼が綺麗な笑みを見せるものだから、チカの感情は爆発した。  驚愕、疑問、モヤモヤ。それぞれに付随する感情の振れ幅が大きすぎて、皆に頼られるクラス委員のチカも、泣いて喚く以外の表現が出来ない。それをもたらしたのが、大好きな壱琉であるから尚更。 「いっちゃんのバカぁ。お花の折り紙で、なんでおこったの? あれ、いっちゃんにあげるために折ったんだよ? チューリップでおこってる理由を教えてくれないのに、作れないよぅ。それに、いっちゃんとチカ、まだ仲直りしてないよ? なのに、ぎゅうってするの、やめてよぅ」 「わ、悪かった。びっくりしたか? あと、実は、ここには仲直りしに来たんだ。だから機嫌直して、俺と一緒に帰ろう。美也と智穂もアイス食いに行くぞ。チカは、何のフレーバーが食いたい?」 「……スペシャルストロベリーがいい……キャラメルも乗せて?」  珍しくちょっと慌て気味の表情が至近距離から見つめてくるから、自分も珍しくわがままを言ってみる。 「了解だ。チョコチップも豪快に追加してやろう」 「うれしい。じゃあ、今、仲直りだね」 「あー、その……先週は悪かった。まさか、ドッジボール大会のための練習だったって知らなくてだな。わけも聞かずに怒鳴って悪かったよ」  うわぁ。『悪かった』を二回も言ったよ。あの、いっちゃんが。
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