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——と、本人は思っている。
高校生の壱琉と小学生のチカは家族ぐるみの付き合いで、名門私立の高等科と初等科で先輩後輩の間柄になる九歳差の幼なじみ。
卒業を間近に控えた高校三年の自分に対し、まだ小学三年生のチカへの年々大きくなる独占欲が『愛情』だととっくに気づいているけれど、まだ理性を保てていると壱琉は思っている。
ろくに眠れずに夜明けを迎え、薄暗い自室で悶々とする羽目になった原因が、自分の理性の崩壊であるというのに。
『いっちゃん、どうしてそんなこと言うの? チカ、かなしい』
『あ? お前こそ何言ってんだ? お前の一番は俺だろ。その他大勢を、この俺と同列にすんな』
『そんなことしてないもん。いっちゃん、変だよ。わけわかんないっ』
『わけわかんねぇのは、お前だ。ちゃんと言い聞かせてやっから、今から俺んちに来い』
『行かない。チカ、お友だちとやくそくしてるの。それにチカ悪くないもん。言い聞かせてもらわなくていい!』
『だから! その〝友だちとの約束〟を俺より優先すんなっつってんだよ! いいから来い!』
『やだ。はなして! いっちゃんのバカ!』
『痛っ!』
『バカバカ! お友だちとのやくそくは、大事なんだよ? そんなこともわかんないいっちゃんなんか知らない! もうチカに話しかけないで! うわーんっ!』
『あっ、待てコラ! おい、チカ!』
小学三年生に友人との正しい付き合い方について諭された高校三年生の幼稚な嫉妬。
チカが『自分より同級生を選んだ』ことを受け入れられなくて、苛つき任せに抱き上げた途端、膝蹴りを鳩尾にぶち込まれるという反撃を受けた。
そこでようやく、相手を本気で怒らせたことを認識したが、時すでに遅し。
謝罪するタイミングを失ったまま、一週間が経ってしまった。つまり、この一週間ずっと、壱琉は悶々し続けている。
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