太陽と嵐

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太陽と嵐

「びっくりニュースだよ。あのお達者訪問団が来るってさ」 娯楽の乏しい過疎の村が大騒ぎになった。視聴率五割を超える長寿番組だ。歓迎準備に村人は奔走する。嵐子は持病やこの村に滞在する件を未だ母親に連絡できていない事を嘆く。 落涙する妙子を見て以来、「背負っている過去は本人が語るべきだ」と嵐子と輝夫は距離を置いてきた。ある日、輝夫が農作業中の妙子を遠巻きに眺めていた。そして寂しいだの羨ましいだの愚痴を言う姿を嵐子は目撃してしまった。どういう意図があるのか。 「様子が変なんです」 輝夫の言動に疑問を感じた妙子は彼の妻・詩織との因縁をほのめかし始めた。そして「気苦労させたくない関係なんだ」と作り笑いする。しかし輝夫は居づらくなって家を飛び出した。 放映当日、常連客が祝杯していると輝夫が暴れはじめた。 ある日、家電量販店でお達者訪問団の番組を見かけた妙子は、いつものように「この番組はあの人が見せるものじゃない」「あの番組をやってるやつは全部悪い奴だ」と泣き叫ぶが、それを聞いた輝夫は自分を追い込んでいた息子を思い出し、「俺に任せておけ」と輝夫が出ていった小屋の方へやってとる。 翌日、輝夫が出ていった小屋を取り囲む村人たち。しかし輝夫は、陰キャと名乗る少年に向かって、自分の本当の名前、親から受け継いだ宝物を明かしていく。 その様子を見た嵐子は、なんと輝夫が「あの人」だとわかり、さらに村人たちの中に「自分が何をされても何も言わずに、何も心配せずに、ただただ自分を大切にしてくれる人なのだ」という声がよみがえってきた。 輝夫には、両親が亡くなった際、輝夫が自分のことを大事にと言い聞かせてくれたことが実は全部そのことだったのだ。彼らが、輝夫と自分を大事にしようとした。そう思うと、不思議と心が温かくなってゆくのだった。 輝夫を見守り続ける妻・詩織や家に引きこもってしまっている「村で唯一の友だち」の父親・隆が、輝夫のためにどんな行動を起こすのか、また、自分は輝夫のために何をしたらいいのか――嵐子は、それらのことに大きな価値を見出する。そして、「本当はどうしたいのか」という問いの答えが自分から出たのだと知るのだ。 そう、陰キャは輝夫の生き写しだ。妻に先立たれた隆はかつて一度だけ大きな過ちを犯した。塞ぎこむ(やもめ)に村中で支援した。破談の落とし種が陰キャという次第だ。隆の高齢を考慮して輝夫の籍に入れたものの義兄弟を親子関係に再構築できるはずもなく陰キャは家を飛び出した。輝夫自身も実母と血縁でない。 「妙子さんはあの日、小屋の方角を眺めていた」 嵐子は思い出してそっと詩織に耳打ちした。 「そうなの…ええ、貴女の想像にお任せするけど、ずっと胸にしまっておいて頂戴。決して男性たちの耳に入れないように」、と鬼の形相で釘を刺した。 「詩織さんはそれで耐えられるんですか…」と言いかけてぐっと堪えた。代わりに番組をどう思うか思い切った質問をした。 「いずれバレることよ。あの子にもあの女にも。番組が却って傷を広げてくれる方が治りも早いでしょ。それに輝夫さんは暫く外国へ…」 「あの話は本当だったんですか」 嵐子には寝耳に水だ。村の噂が事実なら妙子が良く許したものだ。いや、邪魔者がいない方が、あの子のためにもなる。ゆっくりとした時間はわだかまりを溶かし本当の血縁を絆へ成長させてくれる。 「輝夫さんの返事次第でいつでも発てるそうよ。本当は貴女だって一緒に行きたいんじゃない?」 冷やかす詩織に殺意を覚えた。だが大人の女らしい態度で受け止める。 「いえ、まだ体調は不安定ですし、井戸掘りは地雷を耕さなくても出来ますから」 「あら、つまらない」 詩織は露骨に残念がる。 「はい喜んで、って言うと思いました? わたし、そんな歳じゃありません」 嵐子がムキになって怒る様子を詩織は面白がっていた。 「お前もいい加減にしないか。まだ本決まりじゃないし輝夫本人だってそうだろう」 「あらお義父さん」 詩織が振り返ると隆がいた。三人は遠くたなびく飛行機雲を眺めていた。 お達者訪問団を映画化するときに、「自分が輝夫だったら?」という問いの答えとなって輝夫を映していくことを監督から求められた嵐子は、その声に答えを見つけ出すことなど、できるはずもなく、今の輝夫が自分から生まれたのは輝夫が輝夫であると思い込もうとする自分のせいなのかもしれないという不安と葛藤する。 そんな中、思わせぶりに「あの日の気持ちを」と話し、輝夫と話をするために、自分なりの決意を持つわけではなく、自らの願いを打ち明けて輝夫に向き合うことで、「輝夫本人」こそが嵐子の心をどう動かせばいいのかを探ることになった。 しかし、その答えが自分の中に隠れていることに気づいた。、 「自分らしさ」「輝夫の姿」を手に入れるためには“輝夫のための道”は、自分にとって本当にそういう道なのだろうかと考えつつある。 嵐子は、自分らしさの見つけ方を考えながら、自らの願いを「誰かのために」「やりたいから」「これは自分のために」ということにして、自分らしさを追い求めようと、「輝夫になった」という自分ではなく、「輝夫である自分の存在」という自分自身の存在を認識しようと試みた。 実は、嵐子は今の日本ではなく、世界で一番輝夫が好きということを聞いていたという。嵐子は、輝夫に直接話ができる自分自身で輝夫になれる道も見つけてきたかもしれない。 日本ではまだ自分らしさが確立されていない嵐子だが、「輝夫にもいろいろな道や色がある」という風に輝夫についての自分が感じていたことを知ることで、日本から輝夫を追い出す方法を考え出した。「輝夫の正体が自分にしかいない」という考えの下で、嵐子は日本でも輝夫のような人間になろうと決意した、「輝夫になりたい」という彼女の熱い思いに、正式な映画化が決定した。
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