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 グラタンはやっぱり美味しかった。  ほっぺが落ちるってよく表現するけど、一口食べた瞬間、私のほっぺは屋上から落とされた鉄のかたまりのようなスピードで落ちた。それからは夢中で、はふはふしながらたいらげた。  使った食器を、シンクに下げる。  エプロンをつけて洗い物をしている煌大さんに、 「どーやったらあんな味になるの?」  と、きいた。  彼は手を動かしながら、 「手順を間違えなければ、上手く作れるよ」  煌大さんらしい回答だ。  決して自分の実力をひけらかすようなことはしない。 「そーなの?」  微笑みを崩さずに、彼は頷いた。  さっきまで汚れてたお皿やスプーンが、どんどんキレイになって、水切りカゴに置かれていく。  シンクの中はもう空っぽだ。  手際が良すぎる。全国の主婦(夫)さんが見れば、こぞってやり方を教わりに押しかけてきそう(それでお金取れるんじゃない?)。  煌大さんは水を止めると、 「あ、あとは」  思い出したように付け加える。  こちらに向けられる、茶色い瞳。穏やかな色を宿し、私をとらえている。  ちょっぴりドキッとしたけど、 「まだ何かあるの?」  何ともなかったように振る舞う。  メガネの奥の両目が細まった。 「瑛子への愛情を、たっぷり込めることかな」  少女漫画の主人公の相手役が、大きなコマでキメ顔して言いそうなセリフだ。  ここでは私は、目を見開きながらきゅん、てしているべきなんだろう。  心の中ではそうなっていた。けど、 「は?」  とっさにしてしまうのは、ツンケンした態度。  そんな私にはお構いなしに、 「料理を頬張る瑛子の、愛らしい姿を想像してだな……」  ウンウン頷きながらそんなことを言い出す煌大さん。頬が緩んでいる。彼の脳内では、私がモグモグしているんだろう。 「はぁ?」  私はけげんな顔を作る。照れ隠しだ。  エプロンを外した煌大さんが、ずいっと近寄ってくる。 「分かっていないようだな。俺はお前が美味しそうにしている顔も特に好きなん」 「もーいい! 分かった! 分かったからっ」  息をするように聞いてて恥ずかしくなるようなことを言う煌大さんを、手で制止。  これ以上聞いていたら私の心は、レンジに入れられた殻付き卵みたいに爆発してしまいそうだった。  
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