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プロローグ
わぁ……。
水色の空と、どこまでも広がる淡いピンクの花びらに思わず笑みがこぼれた。
受験で訪れた時は鉛色の空で風も頬を切るように冷たかった。枯れ木にしか見えなかった桜はよそよそしくて、立派な校舎に入った途端、足裏がヒンヤリして体がブルッと震えたのを覚えてる。
でも今は、学校全体が僕を歓迎しているようだ。
陽射しはポカポカと体を包み、期待と緊張で昨日の夜からドキドキしてる僕を「大丈夫だよ」と励ましてるし、風にそよぐ桜は「おいでおいで」と僕を招いているみたい。
今日からいよいよ始まる新生活。お父さんとお母さんとおじいさまとおばあさま。お姉さん達と離れての一人暮らし。あ、同室の子がいるから二人暮らしになるのかな?
城鷗学園は、歴史のある名門校で、政治家や医師、弁護士、検事等々の優秀な人材を多く輩出してきたらしい。
桜園路家の男子は全員、この学校へ進学するのが習わし。だからおじいさまとお父さんの母校でもある。僕もここへ行くんだよと小さい頃から言われてきたからなんの疑問も抱いたことなかった。
初めて桜園路の家を出て暮らすのはやっぱり不安はある。同室の子とうまくやっていけるかな? 慣れない部屋で夜はちゃんと眠れるだろうか。家族のみんなから離れてちゃんとやっていけるだろうか……とか。
でもきっとこの習わしは、ある意味試練なんだと思う。いつまでも守ってもらう立場じゃ、この先桜園路を背負っていけないから。
ここまで来たら引き返せない。甘えん坊で頼りないから心配だと昨日の夜まで散々お母さんとお姉さん達に言われ続けてたけど、もうやっていくしかないんだよね。うん!
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