衝撃の事実

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   一年の寮を出て、綾光さんに連絡を入れ、三年の棟へ向かう。  三年の棟に入るのはもちろん初めて。招かれたんだけど、本当にいいのかな? と不安になり周りをキョロキョロしながら近づく。 「智尋君」  ドアのすぐそばに綾光さんが立っていた。部屋着姿。もうお風呂を済ませたのか髪が湿っていてくせ毛みたいに乱れている。グレーのなんの変哲もないスウェットの上下なのに、すごくおしゃれに見える。 「綾光さ……マ」 「え?」  綾光さんはクスッと笑って、僕の手を取った。柔らかくて大きな手が優しく僕の手を包むもんだから、胸のところでドキドキと静かな音が鳴り出してしまう。 「どしたの? かしこまっちゃって」 「あ、えっと、一緒に帰ってきたのを友達が見ていたらしくて。僕、東条院様だって知らなかったから……友達に怒られちゃいました」  綾光さんが目を丸くする。 「なにを怒られたの?」 「綾光さんって呼んだことです。様でしょ!? って驚いてました。なんで一緒にいるの? って」 「そうなんだ。めんどくさいねー」  綾光さんは軽い口調で笑いながらエレベーターのボタンを押した。扉が静かに開く。三年生の寮は一年の寮とはちょっと雰囲気が違って、妙に静かでなんというか、通路に高級感を感じる。 なんだろう? と思って気付いた。通路に絨毯が敷いてあるんだ。足音がしない。  ダークブルーの絨毯はフカフカというか、分厚いというか、まるでホテルの中のよう。平気でお喋りはできない雰囲気。上級生の領域に居心地の悪さを感じて、キョロキョロしてた僕は綾光さんの綺麗な横顔だけを見つめながら歩くことにした。 「知ってる? 三年生になると個室になるんだよ。スペース的には狭くなるけど、個室の方がリラックスできるよね。あ、でも一年のうちはルームメイトがいるのも悪くないか」 「そうなんですか? 知らなかった。あ、でもちょっと安心しました。ルームメイトさんの迷惑になるんじゃないかなって思ってたので」  確かに三年生の寮は下級生の寮に比べて階数が多い。 「それにね」  一番奥まで歩き、ドアに貼ってあるルームナンバーを見る。五二五。「ここね?」と言って、綾光さんがドアノブを掴み開いた。入ってすぐのトイレとバスは同じ作り。その奥は想像したより広くてとても快適な空間が広がっていた。セミダブルと思しきベッド。 勉強机。その他に丸いテーブルとソファ。ミニタイプの冷蔵庫まで置いてある。 「わあ、広いですね」 「でしょ。成績がいいと……上位十名まではこの広さの部屋を使えるんだよ」 「ええ! じゃあ、頑張らなきゃ」 「うんうん。何事もやり甲斐って必要だよね」  綾光さんは冷蔵庫から炭酸ジュースを出してテーブルに置いた。 「ソファ座っていいよ、これも飲んでね」 「ありがとうございます」
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