プロローグ

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 素晴らしい桜から校門の中へ目を向けると、最上級生の先輩達が笑顔で僕を見ていた。僕と同じ、新一年生が頭をペコペコ下げながら受付の先輩に名前を告げ、その隣の先輩に制服のポケットへリボンを付けてもらってる。  僕も行かなきゃ。 「あの、お、おう、桜園路、智尋(ちひろ)です」  ひぇ、オットセイみたいになっちゃった。  変な汗がわーっと吹き出す。  でも三年生のお兄さんは優しく微笑んでくれた。 「桜園路智尋君ね。……はい。受付完了。入学おめでとうございます。頑張ってね! あっちでリボン付けてもらってください。付けたら講堂へ向かってね。講堂前にクラス分けの表が貼ってあるから、それでクラスを確認してから講堂へ入ります。分からないことがあったら青いリボンつけてる三年に聞いて。役員だから」 「はっ、はい。ありがとうございます」  リボンを付けてもらってる同級生のうしろに並ぼうとすると、「空いてるところで付けてもらって」と別の先輩の前に誘導された。  空いてるところ……。  どこもいっぱいだったけど、一カ所だけ空いてるところがあった。足を向けると、そっぽ向いていた先輩が僕を見る。 目が合った途端、ハッと息を飲んだ。その先輩の綺麗な顔にビックリしたんだ。  切れ長の目。少し茶色がかった黒目に影を落とす長いまつ毛。細くて高い鼻梁。意思の強そうなキリッとした眉。笑ったらきっととても魅力的に映るだろうふっくらした唇。どのパーツも完璧で、配置も完璧。 長めの前髪が風で揺れ、先輩が鬱陶しそうに頭を振った。その仕草もカッコイイ。  すごい。まるで絵画から飛び出してきたみたいな人……。  先輩は笑顔の「え」の字もない表情のまま、ツイとリボンを僕の胸に当てた。サッとポケットから手が離れる。 「はい、おわり」  なんの感情もない声と差し出される手。  ……握手?  つっけんどんな表情と、不機嫌そうなオーラ。 おずおず手を出すと大きな手につかまれ、おざなりに握手された。  長くて形のいい指先は、とても冷たかった。
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