お誘い

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「ごちそう、してもらっちゃった……」 「だからぁ~! なんでよぉ! てか、光輝さんて!? 昨日話してた双子の? なになに? 綾光様と違った雰囲気でチョーかっこいいね!」  荒い鼻息が僕の頬にブホブホとかかる。  田辺君は目をキラキラさせてラーメンのボタンを押すと、また体当たりする勢いでくっついてきた。 「詳しくきかせてよ!」 「田辺君って王子様が好きだったんじゃなかったの?」 「王子様大好き! でもいけない魅力っつーの? ダークな感じも好き!」  ますますわからないよ。つまり顔が好きってことなのかな? 「詳しくって言われても、僕もあんまり知らないよ?」 「うそうそ! 知らない人間に奢る人間はいないよ! もったいぶらずに教えてよ!」 「こっちが聞きたいよぉ~。昨日初めて話したし。うーん。きっと、親切な人?」 「はぁ? 意味わかんない」  しつこい田辺君の追及をなんとかかわしながらランチを終える。  田辺君には知らないよなんて言ってしまったけど、今日おごってくれたのはハンカチのお礼なんだろうな。昨日だってお礼言ってくれたのに。 見た目はちょっと怖いけど、とっても律儀な人だと思う。  そういえば、綾光さんに感じた違和感。入学式で僕を迎えてくれたあのムスッとしてた人は、光輝さんだったに違いない。きっと光輝さんは覚えていないだろうけど。  でも光輝さんはずっと僕を探してて……。  なんだかこういうの不思議だな。  学校が終わり寮に戻って宿題を片付けてると、部活が終わった田辺君が戻ってきた。 「さくらぁ、やっぱ、あの双子の弟の方、かなりヤバイらしいよ~」 「え? 田辺君好きになったんじゃなかったの?」 「いやー、やっぱり王子様がいいよ。安全で優しくてキラキラしてるのがいい。桜も気をつけてね。あんまりかかわり合いにならないほうがいいよ」  田辺君が制服を脱ぎながらうんうんとひとりで頷いてる。  関わり合いにならないなんて、なんだか物騒なことを言ってくる  確かに光輝さんはクールだし、不愛想な感じだけど僕には優しい人に見える。 「何を聞いてきたの?」 「寮の部屋でいつも宴会。なにも知らない下級生を誘ってセックスパーティー」 「セッ!?」  セック……スって、こ、交配、だよね? え、どうして? 男同士だから子孫なんか残せないのになんでそんなこと?  ん? ん? とパニックになってる僕をよそに田辺君がペラペラ話を続けた。 「噂では怪しいドラッグとかも使ってるって。マジで、桜みたいなボーッとしてるやつはやばいよ。餌食になっちゃうよ。もう相手にしないほうがいいよ。次はなにか言われても無視したほうがいい。怖いけど」  全然僕の疑問は解決できていないけど、田辺君が心配してくれているのは確かだ。  光輝さん、そんなふうには見えないけど。 「うん……」 「なんか想像したら、気分悪くなっちゃってさ。あ~あ。ちょっと恋しかけてたんだけどなぁ」
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