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猫とひとしきり遊んで、僕らは再び自転車にまたがった。
次に辿り着いたのは住宅街の一番下にあるコンビニ。夜のコンビニは昼間の感じとは違っていた。照明も煌々とついているし、店内放送だって流れている。なのに、どこか忍びやかでちょっとドキドキする。光輝さんの後ろで小さくなってると光輝さんが振り返った。
「アイス食う?」
「あ、うん」
光輝さんはまっすぐアイスコーナーに向かっていく。
「俺、バニラが一番好き。このコーンのやつ」
「じゃぁ、おすすめ?」
「智尋はなにが好き?」
「僕もバニラは好きです。これは食べたことないけど、光輝さんのオススメなら試してみようかな」
「バニラ以外はなにが好き?」
光輝さんは無邪気な表情で重ねて言った。
「教えてほしいんだ。智尋のこと」
「あ、うん。えっと、お餅アイスが好き……です」
光輝さんがふわりと笑った。目が細くなって優しい表情になる。
狼のように鋭い印象だった光輝さんだけど、こんなやわらかな表情もするんだ。落ち着きのある綾光さんの表情とはまた違って、もっと素直というか、内側から滲み出てきたようなピュアさがあった。それで安心できたのかわからないけど、僕はちょっと嬉しくなった。
「この前、初めて食べたら、すごくおいしくて……」
「餅で包んであるやつ? 智尋っぽいね」
「え? それ、どういう意味ですか?」
「だってさ」
光輝さんがツイと右手を上げると、僕のほほをそっとつまんだ。
「ほら、お餅みたい」
「お、おもち……」
つままれていない方の頬を手で触ってみる。お餅なんて言われたの初めてだ。いいことなのか、なんなのかわからないけどちょっと不服っぽく言ってみた。
「お餅アイスの方が柔らかいですよぅ」
「あはは」
光輝さんが楽しそう笑う。
「じゃあ、こっちのバニラにする? それかおモチか」
「互いに好きなのを交換してみるのはどうです? 試食会。そしたら、もっとお互いのことわかるかもしれない」
「いいね」
僕は光輝さんの好きなコーンのバニラ。光輝さんは僕の好きなお餅アイスを手に取った。レジを通し、コンビニ前のベンチに座る。
ソフトクリーム型のアイスのフタとるとたっぷりのバニラがグルグルしてて、けっこうなボリューム感。舌先でぺろりと舐めると、芳醇なバニラの香りと、濃厚なミルクのコク。
「あ、おいしい」
「だろ~」
光輝さんがお餅アイスにかじりついた。
「美味い。餅とアイスって合うなぁ」
「うんうん。そうなんですよ! 求肥が柔らかくてモチモチしてておいしいんですよね」
分厚いワッフルコーンはバターの風味がしっかりあって、こっちも美味しい。ワッフルコーンをもっとかじろうとしたら、鼻先にアイスがくっついた。
「んっ」
「ぷぷ。可愛すぎだろ」
光輝さんが笑って指でアイスを拭ってくれた。その指をそのままペロリする。
あ、舐めちゃった。
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