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なんだかちょっと申し訳ないというか、くすぐったいというか……妙に照れくさい。光輝さんを見ていられなくて、意味もなくアイスクリームへ視線を落とした。
「あ、ごめん。つい。手ぇ、洗ってくるよ」
「へ! あ、いや……」
もじもじしてしまったのを誤解されたらしい。光輝さんはアイスを置いてコンビニへ入っていった。
別に、嫌とかそういうのじゃなかったんだけど……。
戻ってきた光輝さんはアイスティーと炭酸ジュースを持ってた。
「お待たせ。どっちがいい?」
「ありがとうございます。えっと、じゃあこっち」
アイスティーを指さすと、光輝さんは「ほれ」と言って、僕のほっぺにペットボトルをくっつけた。
「わっ」
ひんやりしたペットボトルに思わず声が上がる。
「あはは」
でも、ちょっと気持ちいい。
光輝さんっていたずらっ子だ。
「交換する?」
アイスを半分食べたところで、光輝さんがおもちアイスを差し出した。四個入ってるおもちアイス。ちゃんと二個残ってる。
「あ、でも僕、普通に舐めちゃってる」
ワッフルコーンだって齧ってしまってて、僕のはいかにも食べさしな感じ。美しいとは言えない状態。
「ぜんぜんオッケー」
「うん……じゃあ」
そろそろと食べかけのソフトクリームを差し出すと、光輝さんは本当に気にする様子もなく僕の舐めたところも平気で舐めてる。「交換しましょうか」と僕が言ったのを、半分こと勘違いしてしまったのかな? それならあらかじめスプーンをもらっておくべきだった。自分の気遣いのなさにごめんなさいと心の中で謝りながらおもちアイスを齧った。
アイスを食べ終えた後も僕らはベンチで他愛もないおしゃべりをした。
「猫好き?」
「はい! 動物は飼ったことがなかったから今まであまり馴染みはなかったけど、今日猫さんに会えて大好きになりました」
「あいつね、最初は座ってジーッとこっちを見てるだけだったんだよ」
「へぇ~、じゃぁ、ゆっくり仲良くなっていったんですね。今じゃあんなに……」
光輝さんがいきなりパッと僕の手首を掴んで立ち上がった。
「やべ」
「え! なに?」
「乗って。つかまってろよ」
言われるがまま慌てて自転車を跨ぐ。
「ふあっ」
グンと背中が引っ張られ落ちそうになったから、慌てて光輝さんの腰を両手で掴んだ。
「くすぐったい」
「ご、ごめんなさい」
両手をパッと離しワタワタしてると、光輝さんが言った。
「腰に手を回して、腹で自分の手ぇ握ったら?」
「はい」
腰に、手を……お腹で……こ、こうかな……。
言われた通りしてみると、体が光輝さんにグッと近くなった。ほとんどくっついてる。まるで背中から光輝さんを抱っこしてるみたいな恰好。頭の中で、田辺君の声がした。「桜はその双子の弟のほうが好みだったんだ」「抱っこされたいとは思わなかった?」
う……ん、違う違う。これは抱っこじゃなくて掴まっている状態だし、僕が抱っこしてるし……ってだから、抱っこじゃなくって。
頭の中の言い訳めいた思考を取っ払おうとした時だった。段差で自転車がガクンと揺れる。反動で光輝さんの背中にトンと頬がくっついた。光輝さんの背中は暖かくて、ドキドキと心臓の鼓動が聞こえた。
あれ? これって僕の?
どっちの心音なのかもよくわからなくなってきて、気づいたら僕はドキドキの音を聞きながら光輝さんにしがみついていた。
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