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自転車はコンビニから反対側の歩道へ渡る。
煌々と白い光を放つコインランドリー。その建物の影に僕たちは隠れるようにすっぽり入った。
自転車が止まりゆっくり腕を離す。光輝さんの背中からくっついた顔を離した途端、ひんやりした空気が頬を撫でた。火照った頬に気持ちいい。
「セーフセーフ」
暗くて光輝さんの顔は見えないけど、僕の焦りには気が付いていないみたい。でも、なんで隠れるんだろう?
声をひそめ尋ねる。
「光輝さん?」
「コンビニ、生徒指導部のあべちゃんがいる」
「え」
阿部先生は泣く子も黙る鬼より怖いと有名な生徒指導部の顧問。僕は直接お目にかかったことはないから、遠目からと名前だけしか知らないけど。光輝さんのうしろから覗き込み、コンビニの駐車場を見る。
コンビニに入ってきた車から降りたのは確かに阿部先生っぽかった。学校ではスーツ姿だけど、今はラフなジャージ姿。言われないとわからなかったと思う。光輝さんは毎日の散歩で見慣れているからかも? こんなに遅くに寮を抜け出し、アイスまで買ってしまった。見つかったらどれだけ叱られるかわかったもんじゃない。
僕は顔を引っ込め、光輝さんの背中にそっと身を隠くした。
「あいつ、生徒がフラフラしてないか偵察してんだよ。しかも生徒がいなけりゃ酒とつまみ買って学校に戻るんだぜ? 汚い大人の見本だよなー」
呆れた口調で言って僕を振り返る。
「俺は別に見つかっても痛くも痒くもねーけど、智尋は目をつけられたらめんどいから」
「ありがとうございます」
「もし、学校であいつに何か言われたら、俺の名前だしゃいいから」
「そんなのダメですよ。道ずれなんてしないです」
「ば~か。俺が問答無用で連れ出したんだから」
光輝さんはカラッと笑って、僕の頭をポンポンと叩いた。まるで、小さな子供に言い聞かせてるみたいだ。
「あべちゃん行ったな。んじゃそろそろ戻るか」
「はい」
帰りは緩やかだけど登り坂。二人乗りはさすがに無理で、自転車を押す光輝さんと並んで歩く。
「たまには夜の散歩もいいだろ? なんて、校則やぶりは心臓に悪かった?」
「いろいろ楽しかったです。……ちょっとドキドキした、のも」
しりつぼみになっていく僕とは反対に、光輝さんは明るい声をだした。
「マジ? じゃ、また付き合ってくれる?」
光輝さんも喜んでくれたことにホッとした。
「あ、っと……気が向いたらさ」
今度はちょっと照れたような口調で話す。
コロコロと変わる光輝さんはもう怖いなんて印象は消え失せてとっても可愛らしく見える。みんな本当の光輝さんを知らないだけなんだよね。
僕はうんうんと頷いた。
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