お誘い

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「あ、でも。綾光さんには悪いことしちゃいましたね」  光輝さんの楽しそうな表情が、スッと無表情に変わった。  学校の敷地へ入ると、光輝さんはジャージのポケットから僕の携帯を取り出し「ほい」と寄越した。 「俺に邪魔されたって言っておけばいいよ」  光輝さんはすぐに悪者になろうとする。本当は優しい人なのに。  やっぱり田辺君から聞いた光輝さんの噂話、僕はどれも信じられない。 「だから、言いませんてば。理由はどうあれ、約束を破ってしまったのは僕なんですから」 「付き合ってくれてありがとう。おやすみ」  光輝さんは足を止め、顎で一年の棟を指した。 「お散歩、また誘ってくださいね。あ、アドレス。光輝さんとはまだ交換してなかったですよね。お願いします」  携帯を差し出すと、光輝さんがプイと横向く。 「無理しなくていいって」 「無理って?」 「社交辞令は嫌いなんだよ」 「社交辞令なんてしてないですけど」 「また、会えたら。その時でいいよ」  なんで社交辞令なんて言うんだろう。僕が綾光さんの名前を出しちゃったから? 「え……会えなかった……ら?」 「縁がなかったってこと」  光輝さんは自転車に跨ると、ひとこぎで離れた。 「おやすみ~」  背中を向けたまま軽い口調で言う。  でも、僕は「おやすみなさい」と言えなかった。ただ、光輝さんが自転車で去っていくのを見送った。
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