294人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
告白
「桜、食堂行こ」
「ああ、うん。今日はいいや」
「どうしたの? 腹痛い?」
「そうじゃないけど、食欲なくて」
「大丈夫? 休む?」
「ううん。そこまでじゃないから。先行ってて」
腑に落ちない感じの田辺君が部屋を出て行くのを待って、ボスッとベッドに腰を下ろした。
昨日、光輝さんと学校を抜け出して夜の散歩へ行った。
たった一時間くらいだけど、僕はいろんな体験をした。二人乗りの自転車にワクワクしたり、猫さんと遊んで楽しかったり、アイスの交換とか、隠れっことか、いろんなドキドキもあった。楽しかったのに、嬉しかったのに、最後は光輝さんをガッカリさせてしまって、なんだかすごく寂しかった。
英会話のレッスンに行かなかったこと綾光さんにも謝らないと……そう思ってたのに、部屋に戻りベッドに潜っても綾光さんにメールするのを忘れていた。ううん。なんとなくそんな気分になれなかった。
何がいけなかったのかな? とか、楽しかった時間を思い出してばかりで、なかなか眠れなかった。朝起きても何も変わってない。ずっと僕はどよんとした空気の中で項垂れたまま。
なにもかもが億劫で、学校に行くのも面倒だと思ってる。綾光さんへの謝罪もまだなのに。わかっているのに、ずっとそのままにしてる。
僕、どうしちゃったんだろう。
「はぁ」
重い空気を吐き出し、鞄を持って部屋を出た。寮から出て校舎へ続く道をトボトボ歩いていると、欅通りの脇に人影が見えた。
「あっ」
光輝さんだとすぐに分かったけど、声がかけられない。締め付けられるような息苦しさと、泥を被ったみたいな重苦しさを感じて、僕はつま先だけを見つめて光輝さんに見つからないように速足で歩いた。
「智尋」
通り過ぎたと思った瞬間、光輝さんが名前を呼んだ。ギュッと心臓が縮み上がる。僕の前を歩く一年が「え」という顔で振り返った。それにも構わず、光輝さんは僕の手を握ると「ちょっとこっち」と言って歩道から外れ、大きな幹の奥へ引っ張った。
ああ、またみんなに誤解されちゃう。
背中に視線を痛いほど感じながら、僕は小走りで光輝さんと歩いた。光輝さんはザカザカと大股で歩きみんなの姿が見えなくなるくらい離れると足を止めた。振り返るなり、ガバッと頭を下げる。
最初のコメントを投稿しよう!