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助けてくれた人
「ちひろ、アイラブユー」
英語部の二年の先輩である鈴木さんが耳元で囁いた。
「用事があるから、桜園路君は残ってほしい」と言われ、部員のみんなが出ていくのを見送り、鈴木さんとふたりきりになった部室でのことだった。
ポカンと口を開け、パチパチと瞬きをする僕の前には鈴木さんの顔。理知的なメガネがキラッと反射して、僕の顔を映しだしてる。
「……あのぉ、鈴木さん?」
「男を好きになるなんてバカげたことだと思ってたんだ。智尋に出会うまで」
いつもは桜園路君と名字で呼ぶ鈴木さんにいきなり下の名前で呼ばれ、「え?」と固まってしまった。
「ど、どうしたんですか? 急に」
「急にじゃないさ。部活勧誘で君を誘ったあの日から、ずっと想い続けてきた。君だってそうだろう? 僕の勧誘に見学も無しで、こんな少数の部活に返事ひとつで入ってくれたじゃないか。それに、僕に向けてくる穢れない親愛の笑顔。どれほど僕を追い詰めるんだ」
部員が四名しかいなくて存続の危機だと言われ、それならばと入った部活だったんだけど……。追い詰めるって、え……? 親愛って……?
鈴木さんの言葉に追いつけなくて、たじろいでいると鈴木さんは深刻な表情で目を伏せた。
「こんな気持ちになるなんて……。ぜんぶ智尋が可愛いせいだ」
思いつめた声で独り言のように言うと、鈴木さんが突然僕の頬を両手で挟んだ。ムニュと頬っぺたがつぶれ、ぶちゅっと唇を押し付けられる。
へっ!?
突然のことに目を見開く。
こっ、これはなに? いったいどういうこと?
さっきのさっきまで鈴木さんはいつも通り特に変わった様子なんてなかったのに、なんで僕は今、口付けされてるの!?
驚きですっかり呼吸が止まってたことに気付いたのは、鈴木先輩をドンッと突き飛ばしたあとだった。
「っぷはっ………はぁ、はぁ、あぁ、苦しかった」
ドシンと尻餅を着いた先輩が目を丸くして僕を見上げてる。いつもクールな印象に見せるメガネが片方外れておかしな様子になっていた。
「あ、鈴木さん、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
我に返った僕は鈴木さんの前に屈みズレた眼鏡を直した。すると鈴木さんが「うわあ」と変な声を上げながら覆いかぶさってきた。お腹のあたりに硬い感触が当たる。
「ち、ひろっ! ちひろっ! 智尋っ!」
「ちょと、鈴木さんっ!」
ズボンからシャツを引き抜き、服の中に手を入れようとする。
「なっ、なにするんですか! やめてください、ちょっと! ねえっ」
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