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「昨日は、変な態度とってごめん」
「へっ! あ、あの、僕もごめんなさい」
慌てて頭を下げると光輝さんが顔を上げた。辛そうな表情のまま首を振る。
「智尋はなにも悪くないよ。楽しかったのに……。最後に台無しにして俺がバカなだけ」
ポケットから携帯を取り出し、光輝さんは続けた。
「今まで、俺と繋がりたいやつなんていなかったから。みんな綾のついで。綾と交換して俺と交換しないと露骨だから、ついでに。社交辞令ってやつ。また一緒に散歩行こうって誘ったら、智尋も綾のことを口にした。だから、やっぱりって……でも、あんなおとなげない態度とって不快にさせることなかった。本当にごめん」
光輝さんはまた頭を下げた。心の底から悪いと思ってるのが伝わってきて、ホッとしたと同時に力も抜けてしまう。
「……よかったぁ」
張りつめてた感情がプツンと切れて、目の縁にぷぅとなにかが浮き出てくるのを感じた途端、僕はへなへなとその場に座りこんでしまった。
「え、ちょっ」
驚いた光輝さんが同じ目線になって僕に腕を回した。引き寄せられ、そのまま体をヒョイと持ち上げられてしまう。
「うあっ」
僕は慌てて、光輝さんの首へ腕を回した。
「大丈夫? 貧血?」
光輝さんが目を丸くして僕を見てる。顔がすごく近いし、女の子みたいにいわゆるお姫様抱っこされてることに、顔がカーッと熱くなった。僕は手を放して、ふるふると首を横に振った。
「あの、気が抜けちゃって……僕、光輝さんのこと怒らせちゃったから。縁がなかったらもう会えなくていいってくらい怒らせちゃったんだって。すごく後悔してるのに、後悔の原因もわからなくて。でも嫌われたくないからどうしようもできないって」
昨日からずっと溜め込んでいたものが溢れ出して、自分でもなにを言ってるのかわからないと思った瞬間、光輝さんが言った。
「好きなんだ」
突然の告白にピタッと時間が止まった。
「へ……?」
好き? 光輝さんが、僕を? こんな抱っこ状態ってことは……つまり……。
また顔がどんどん熱くなっていく。心臓がドキドキを通り越して、バクバクと大きく伸縮して、息ができなくて目が回りそう。僕は心臓が飛び出してしまわないように、グッと腕で抑え込んだ。
「あー。ごめん。こんなこと、このタイミングで言うことじゃないな」
光輝さんはキョロキョロ周りを確認して、僕を抱き上げたまま、また歩道の方へ歩き出す。
あ、待って……!
みんなに注目されちゃう! と思ったけど、他の生徒はもうとっくに校舎の中だった。
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