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ずっと大きな手のひらは乗ったまま。
みすぼらしくなってる顔を隠してくれてることに、ちょっとだけ安堵した。
「……手、ありがとうございます」
「一限目、終わったら見舞いに来るから、おとなしく寝てろよ?」
優しい声。瞼の上から離れてしまう手の温もりに、「ああ」と掴もうとした時、カーテンの向こうで保険医の先生の話す声が聞こえた。
「はい。おうえんじ君です。はいはい」
布団から出しかけた手をギュッと握る。
「先生、熱はありません」
光輝さんの声だ。もう遠くに聞こえる。
「ありがとう。もう教室戻っていいわよ。もしもし? 熱は今のところありません。はい。よろしくお願いします」
行っちゃう……。
一時間目が始まるんだから、光輝さんだって教室に戻らなきゃいけない。
当然のことなのに、すごく寂しい。
シーンと静まり返った保健室。
爆発しそうだった僕の心臓もすっかりおとなしくなっていた。静かに大きく息を吸い込んで、ゆっくり吐き出し胸の中の空気を入れ替える。少しだけ頭もスッキリした。
抱っこ……されてしまった。好きって、告白も……。あれは告白だよね? 友達としての好きとは別の……。別……。
そこまで考えて、綾光さんとのレッスンを思い出した。
あれはレッスンの延長で、僕は人として好きという意味で「I Love you」と返してしまった。でも、そのあとで口づけを受けてしまったから、あれもそういう意味になっちゃうのかな?
だったら、どうしよう。
光輝さんに秘密にしてていいのかな? 嫌だよね。隠されていたら。でも、知ったらもっと嫌だよね……。もう、英会話のレッスンはお断りした方がいいのかもしれない。
どうしよう……どうしよう……どうしよう……。
また胸のところが重苦しくなってくる。
「どう? 吐き気とかない?」
保険医の先生がそっと顔を覗かせたけど、僕はかけ布団を引っ張り顔を隠した。また聞こえる田辺君の声。
『抱っこされたいとは思わなかった?』
浮かぶ光輝さんの表情。
わからない。
わからないよ。でも。
今は、光輝さんの大きな手がただただ恋しい。
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