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手を離すと、「ごめん」と笑い、また田辺君が言った。
「わかりました、また来ますってカーテンから出たんだよ。んで、出て行ったフリして、こっそり隙間から見てたんだけど。や、先輩から色々聞いてたし、心配になっちゃってね。そうしたら、光輝さん? 桜の髪をずっと撫でてさ。んで、オデコに……」
ウフフと含み笑いして先を言わない。
保健室を出たフリして覗いてたなんてビックリだったけど、それよりもそのあとのウフフの方が断然気になる。僕はまた顔が熱くなってしまわないように、水を飲んで気を静めながら田辺君に尋ねた。
「お、オデコに?」
「ウフフ。オデコにぃ、そっと上半身折ってさ、チュッて……ひゃー!」
自分で言って光景が蘇ったのかまた声のトーンが上がる。
「うあああああ、田辺君、田辺君、しーっ!」
一緒にひゃーってなりながらも慌ててまた田辺君の口を塞いだ。
「フゴフゴ」
「ごめんごめん、えっと……それ、本当に?」
うんうんと頷いて田辺君がニヤニヤ顔になる。恥ずかしいような変な感じがして、僕は前髪を触って、オデコを指先で撫でた。
じゃあ、光輝さんの告白ってやっぱり。抱っこの方の好き……。
「みずくさいよなぁ。言ってくれたら応援するのにぃ」
「いや、あの、僕も知らなかったし」
「ちがうちがう。付き合ってんでしょ~?」
「つっ!! や、あ、ま、まだ返事してな……あっ」
思わず口が滑って、今度は自分の口を塞いだ。田辺君がひょおおおおという顔で口を開けた。
「告られたのっ!?」
田辺君の大声に、ひっ! とすくみあがり、注意することも口を塞ぐこともできなかった。周りが一斉に振り向いて僕たちを見る。いてもたってもいられなくなって、まだ半分残ってるうどんのトレーを持ち、逃げるように返却口へ向かった。
「あ、あ、さくらぁ」
田辺君が追いかけてくるから僕は速足で食堂を出た。
「待ってよぉ。ごめんて~」
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