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どうしてキスするの?
学校から戻り、いつものようにテキストに向かう。でも、全然頭に入ってこない。最近いつもこうだ。シャーペンの先をノートにトントンと打ち付け、気が付いたら携帯を取り出して、光輝さんの名前を眺めてる。
『遠慮しないでいつでも呼んでね? すぐに駆け付けるから』
あの言葉はもちろん何かあったときって意味だよね。僕が寝不足で弱ってたから。
頭の中で、本当に駆け付けてくれるのかな? なんて、メッセージを送ってみたい衝動に駆られてしまう。でも、僕を心配して言ってくれたのに、意味もなく送っちゃダメだぞ! と自分を制した。
季節はすっかり夏になってしまった。
せっかく交換したアドレスだったけど、特に何も起きていない僕は未だ自分から連絡ができないでいる。偶然の出会いがたくさん続いていたように感じるけど、一年生と三年生。そうそう偶然は頻繁に起きない。
校舎へ向かう時、いつも思い出してしまう。
手を引っ張られて、告白されたんだよね。と、大きな幹の陰を見てしまう。けど、それ以降そういったことも特にない。
光輝さんから夜の散歩のお誘いは週に一回。
大抵、水曜日か木曜日に連絡してくれる。
金曜や土日は教師の見回りが強化されるみたい。夏の開放的な雰囲気に、いつもは真面目な生徒も羽目をはずすことがあるらしい。
外に出て他校の生徒とトラブルとか、ケンカに巻き込まれた、カツアゲされたという事例が相次ぎ、ますます外出禁止が厳しくなっていくという悪循環。そんな中、光輝さんは教師の目を盗んでいつも夜の散歩をひとりで楽しんでる。でも残念ながら僕は毎回は誘ってもらえない。
週に一回、夜の散歩に行けた時は、あの猫と遊んだり、コンビニで光輝さんとアイスを食べる。最近では光輝さんの選ぶアイスもバニラ系から、シャーベット系に変わった。僕は相変わらずだけど、たまに光輝さんとおそろいのを食べたりもする。
僕らは校則を破って、健全な関係を続けてる。光輝さんの告白の返事もまだできていない。タイミングがわからないし、どう返事していいのかもわからない。光輝さんと夜の散歩は楽しいし、自転車の後ろに乗るのも好きだ。もっといっぱい逢えたらなとも思ったりするけど……。
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