どうしてキスするの?

2/4
前へ
/59ページ
次へ
 ◇ ◇ ◇ 「付き合ってくれてありがと」  寮の前で光輝さんが微笑む。 「また誘ってくださいね!」 「うん。じゃあね。おやすみ」  光輝さんは手を上げてもその場を動かない。やっぱりちゃんと僕が中へ入るまで見守っていてくれる。いつもだ。中に入って、大きく手を振る。光輝さんはまた手を上げて、三年の寮の方へ歩いていった。  部屋に戻ると田辺君が目をキラキラさせて振り返った。 「おかえり!」 「ただいまー」 「どうだった? チューした?」 「してない」 「あら~。まだプラトニック? 純愛だねぇ」  ニヤニヤしていつもからかってくる。  田辺君は口づけのことをチューっていう。キスという言葉の方が一般的らしいけど。僕はその辺の知識はどうやら疎いってことを最近知った。  お姉さん達と年が十個も離れてるし、一人っ子状態だったからかな? 周りにそういった話題をする人がいなかった。今までの友達ともそんな話したことがなかったし。こうやってあっけらかんと教えてくれるのは田辺君ぐらいだ。 「おもしろがんないでよ」 「もうさ、桜からいっちゃったら? ガバッと抱きつくんだよ」 「抱きついてどうすんのさ」 「抱きついたら、さすがに光輝さんもスイッチ入って、チューになるんじゃない?」  僕が抱き着いたら、口づけしたくなるのかな?   好きだって告白してくれたから、なるのかもしれない。でも、僕は? 光輝さんと口づけしたいのかな? もちろん絶対したくないとは思わない。でも、したくてたまらないわけでもないのに、けしかけるようなことするのはよくないんじゃないかな。 「田辺君はやっぱりチューとかしたいと思うの?」 「そりゃ好きならしたいでしょ? 当然じゃん」 「なんで?」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加