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田辺君がキョトン顔になった。
「なんでって……好きなら触りたいとか、くっつきたいとか思うのに理由ある? それの延長線だよね? キスだってさ」
田辺君は「あーわかった!」と言うと、ちょっと呆れた口調で続けた。
「光輝さん、桜がおぼこいから我慢してんじゃね? なんでキスするの? なんて小学生の疑問だもんなぁ。可哀想に。俺だったら、すぐに大人のお付き合いに発展できるのにぃ」
「大人のお付き合い? ……それが、キス?」
キス……口づけはしたことがある。綾光さんとだけど。
そう思った瞬間、胸のあたりが一瞬クッと苦しくなった。
お付き合いもしてないのに、してしまったんだよね。
勘違いの告白のあと、されてしまった。あの時は本当にびっくりした。あれを光輝さんともしたいかと考えて、特にしたいって思わなかった。もちろん綾光さんとも。
光輝さんには抱っこしてもらいたいって気持ちはある。自転車のうしろで光輝さんにくっついているのは好きだ。口づけの方は……。
お付き合いに至るくらいの「好き」にまだ僕は達していないってことなのかな? だとすると、やっぱり告白の返事をする資格は僕にはまだないってことなんじゃないだろうか。
「やっぱり、光輝さんもしたかったりするのかな?」
「そりゃしたいだろ。させてやんなよ。でないと脈なしと思われて捨てられちゃうかもぉ~」
捨てられるって、もう会ってもらえないってこと? それって……。
初めて散歩に連れて行ってもらった帰りの出来事を思い出した。『縁がなかったってこと』そう言って去ってしまった光輝さん。
あの時僕はすごく寂しくて、真っ暗闇の中ポツンと自分だけが立っているような孤独感に苛まれた。取り残されてしまったような感覚。
また、あの時みたいになってしまう?
一週間に一回だけど、一緒に過ごせる時間があるだけでいいって思ってた。でも、それもなくなってしまうというの?
そっか……光輝さんは、もうとっくに友達とは違うんだ。僕に資格がなかったとしても、キスしないといなくなってしまうのなら……したほうがいい……か。
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