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綾光さんの誘惑
やっと放課後だ。
今日は一日ワクワクしてた。
疑心暗鬼になったり、落ち込んだりしたのに、僕って単純だ。
光輝さんと綾光さんと僕。三人で楽しくおしゃべりなんて素敵だよ。綾光さんが言ってたように絶対楽しいって思う。
そういえば、光輝さんのお部屋、綾光さんの隣なんだ……ということは光輝さんも成績十位以内ってこと? そんな素振り見せないのに、やっぱり光輝さんってカッコイイ。
ずっとワクワクしてる僕に田辺君が「もしかして、デート? じゃあ、今日こそチュー?」とからかってきた。でも、僕は案外平気だった。昨日はキスしなきゃって勇み立っていたけど、今日は三人だから絶対に無理。だから安心なのかもしれない。
自分から出迎えを断ったのに、いざ三年生の寮に入るとまだまだ緊張してしまう。ロビーで数人の先輩からジロジロ見られた。でも、声は掛けられない。僕はペコペコお辞儀して足を進めた。
綾光さんの隣の部屋、光輝さんの部屋をノックした。すぐにドアが開く。でも中からひょこっと顔を出したのは綾光さんだった。
「あ、きたね」
「え? あ、あの。光輝さんの部屋じゃ」
あれ? あれ? と二つの部屋を交互に見てると綾光さんが言った。
「うん。ここ、光輝の部屋だよ。今あいつシャワーしてるから。先行って待ってよ」
ドアを少し開け中を見せる。部屋に光輝さんの姿はなくて、バスルームからはたしかにシャワーの音が聞こえた。
「えっ……でも」
時計を確認するとちゃんと七時五分前。
約束してたのに、どうして?
戸惑う僕に、綾光さんが「ふふ」と笑う。
「あいつさ、今日は早めにランニングに出たんだよ。だから、汗だくでさ。察してやって? やっぱり好きな子と過ごすのに、汗臭いのイヤだよね?」
ボッと顔が熱くなる。
こういう時、双子ってすごく厄介。光輝さんと同じ顔で、すんなり好きって言葉を口にされるんだもん。綾光さんは光輝さんじゃないんだけど、頭でわかっていても、視覚情報ってすごく強力。
「ええっと、じゃあ、……先に」
ワタワタと両手を左右に動かし伝えると、綾光さんは優しく頷き、光輝さんの部屋を出て隣の部屋のドアを開けた。
「どうぞ。三人でパーティしようと思っていろいろ用意してあるから」
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