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綾光さんの優しい声が静かな空間の中、囁き続ける。
綾光さんの声も言葉も、瞳も、手の温かさも、独特な雰囲気も、周りを遮断してしすっぽり空間ごと飲み込まれてしまうような……魂が抜けてしまうような、魔法にでもかかってしまったような感覚になってしまう。
「智尋」
綾光さんの手がそっと僕の頬を包んだ。いつの間にか距離がすごく近くになってる。
「あ、あの……」
綾光さんの視線がちょっと下がる。僕の口を見てるみたい。近づく距離、伏せられていく瞼。長いまつげが影を作る。
このままじゃ口付けされる……されちゃう……う、動けっ!
「あ、あ、ああ、ごめんなさいっっ!」
僕は自分の口の前に両手をかざし、ガードした。次の瞬間、ドアがガーンと大きな音を立て開き、壁にバーンと当たり背筋がビーンッと伸びた。
「ああああ綾っ! この野郎っ!」
光輝さんが半裸の格好で、しかも後ろ手に縛られ飛び込んできた。
なんで、縛られてるの!?
「ええええっ、光輝さんっ!?」
「あ、やっときた」
綾光さんがケロッとした顔で言うとサッと立ち上がる。さっきの綾光さんはすっかりいなくなってる。
「あ、やっ、そんなことよりどうしたんですか!? お風呂入ってたんじゃっ」
「光輝、この子はすごいよ。本気で光輝が好きなんだね。僕の催眠術が効かなかった。この子なら僕も許可するよ」
綾光さんが嬉しそうに言って、追いかける光輝さんからバタバタ逃げる。
「さ、催眠術っ!?」
ソファに座る僕の周りをぐるぐる走り回る二人を見ながら、怒涛の情報に完全に頭がパニックになっていた。
「うるさい! やめろって言っただろ! 一発殴らせろ!」
「殴られたくないから、後ろ手に縛ってあるんだよー。智尋君に解いてもらえばいい。僕は隣の部屋で過ごすからふたりでごゆっくり~」
綾光さんはドアにたどり着くと、チャーミングに手を振って部屋から出ていってしまった。
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