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口づけの意味
「くそっ! バカ綾っ!」
「え……あの、光輝さん?」
光輝さんは黒いボクサーパンツ一枚というあられもない格好で、両手は背中に周り、丈夫そうなロープでグルグル巻きにしてあった。とっても情けない姿なのに、光輝さんの美貌のせいか妙にセクシーに見えてしまう。
肩で息を切らし、乱れた髪で振り返った光輝さんが僕を見る。
「智尋……ほんとにごめん。おかしな兄貴で」
「あ、うん……綾光さんのギャップも激しいんですね。あ! ロープ、とります」
光輝さんの背後に回る。よく見るとロープを解こうと暴れたのか、腕を擦りむいていた。
「光輝さん、ケガしてる」
「え? ああ、それくらいなんでもないよ。気にしないで」
「や、そうはいきませんよ。って、……っロープ固い」
結び目はガチガチだった。手だけじゃなかなか解けない。仕方なく、床に膝を突き、奥歯で結び目を噛み押さえながら結び目を緩め、なんとか解いた。
「ありがとう」
「消毒液とか、救急箱ないですかね?」
きょろきょろしてると、光輝さんが忌々しそうに話す。
「チクショ。綾のやつ。俺がシャワー浴びてる間に部屋に入って、睡眠薬かなんか入れやがった。起きたら、風呂の中だし、シャワー出しっ放しだし、縛られてるし」
「散々ですね。やってることはひどいけど、綾光さんも光輝さんを心配してるみたいでした。あの……よくあるんですか? こういうこと」
光輝さんはクローゼットを開けて、綾光さんの服を適当に着ると、僕の隣にボスッと座りため息をついた。
「そうだね。子供の頃から。綾は……ちょっと病気なんだよ。ブラコンっていうの? 俺のことを好きだと近寄ってくる人間を片っ端から自分の方に振り向かせてしまう。相手も相手なんだけどね。でも、綾に誘われて毅然と断れるやつの方が稀だろ?」
「ああ、さっきの催眠術……ですか?」
確かに僕も魔法にかかったようになってしまった……。思えば最初の日もそうだった。
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