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「あの四月の時、二日酔いでグッタリしてたら智尋が声を掛けてくれた。嬉しかったよ。打算なく、純粋に心配してくれた。声が優しかった。久しぶりに人の優しさに触れた気がした。だから、智尋の顔を見てないけど、好きになったんだ。また逢いたいって思った」
「あの……、僕でよかったら。ずっとそばにいます。いたいです。光輝さんといると楽しいです」
光輝さんは苦笑いした。
「俺は智尋が好きなんだよ。キスしたいと思ってるし、それ以上のこともしたいと思ってる。それは迷惑だろ? 告白もなかったことにされたし、だから、無理しなくていい」
やっぱり、したいんだ。
ただ口をくっつけるだけなのに、それを僕としたいって言ってくれる。
素直に嬉しいと思った。
僕が綾光さんの催眠にかからなかったのは、きっと光輝さんと一緒にいるために口付けしようって思ってたからだ。僕にとっての口付けはそれだけ大きな意味があった。だから綾光さんとは絶対してはいけなくて。でないと、僕のキスの意味がなくなってしまうから。
「僕は、光輝さんと一緒にずっといるために……あなたとキスがしたいです」
光輝さんは目を丸くして、嬉しそうに微笑んだ。目がキラキラと潤んでる。
「好きだよ」
光輝さんの囁くような言葉に体の中がブルブルと小さく震えた。そのブルブルがどんどん込み上げてきて、勢いのまま僕の口から飛び出す。
「好きっ!」
気が付いたら僕は光輝さんの首に両腕でしがみついて、目を瞑って光輝さんの口に自分の口をくっつけていた。
光輝さんの腕が僕を包んで引き寄せる。
僕を囲む腕と温もりはとても安心できて、落ち着いて、嬉しさがじわ~と体の中を満たしていく。
抱っこって……抱きしめ合うって、こんなに気持ちいいんだ。
僕を囲っていた腕がゆっくり上がってきて、うなじから髪の中に差し込まれていく。全部が初めての感触だった。
光輝さんの指が肌の上を通っただけで、全身にビリビリと電気が走る。
くっついていた口はいつの間にか、触れるか触れないかのような距離になって、光輝さんは顔を傾けつつ、何度も優しくついばむようなキスをしてくれる。光輝さんの唇はふわりと柔らかくて弾力があって、僕の唇を優しく包む。
これが……キス?
すごく気持ちいい。くっつけるだけと違う。
だんだん脳がとろんとプリンみたいになった。足元はぐにゃあと波打ち、周りもとろとろに溶けていくみたい。
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