助けてくれた人

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 あれは僕がこの学園に入学してすぐの頃。  まだ友達もいなくてひとりで部活見学をしている時だった。  運動部に入る気はなかったけれど、ルームメイトの田辺君から「部活まだ決めてないなら卓球部を見学しにおいでよ」と誘われ見学に行った帰りだった。  田辺君はとってもいい子。僕と同じ、どっちかっていうと地味めだけど、とても親切。中学で卓球部に入ってたらしく部活も卓球部一択。なので仮入部一日目から見学じゃなくて部活に参加もしてたんだ。  卓球部って、もっとゆったりとした部活動を想像してたのだけど、みんな素早い動きで、小さなボールも速すぎて見えないくらいだった。  やっぱり僕には無理かもなぁ……と校舎に戻ろうとした時、大きな桜の木の影に人が倒れているのを発見したのだ。  ビックリした僕は駆け寄り「大丈夫ですか?」と声を掛けた。  死んでるかと思った男の人が「うう」と呻き声をあげる。うつぶせで自分の腕を枕にしていて、ちょっとだけ頭を上げたけど、前髪で顔は見えなかった。ただすごく具合が悪そうだった。 「う……ポカ……」 「え? なんですか?」 「そこ、じはん、き……ポカリ……」  ヨロヨロ伸びた腕が指差す先には体育館と自動販売機。それで飲み物が欲しいんだとわかった。 「ポカリですね! 買ってきます。待ってて」  指定のポカリスエットを買って戻ると、男の人は仰向けになっていた。目を閉じたまま「う~」と唸ってる。ポカリスエットを渡すと、額に当てて「あー」と少しホッとした声を出した。  目を閉じたままだし、眉間にシワが寄ってまだ辛そう。僕は体育館横の水飲み場でハンカチを濡らし、芝が付いてしまってる彼の頬を拭き、ハンカチをきれいに洗って今度は彼の額へそっと乗せてみた。これでちょっとはスッキリするといいんだけど。 「あー……サンキュ」  彼は額のハンカチを引っ張り目元を覆って礼を言った。 「よかったら使ってください。あの、だれか呼んで来ましょうか」 「いい。さっき吐いたし……これ飲んだら治ると思う」  ヨレヨレな声してる。 「他になにか僕にできることありますか?」 「いいよ。親切な子だね。ありがとう。もう……行っていいよ……」 「はい……」  心配だったけど、ずっと見てるのも気を遣わせるかもしれない。  そろりと立ち去ろうとした時、また彼がヨレヨレな声で言った。 「ねぇ、君」 「はい」 「名前、なんていうの?」 「桜園路智尋です」 「ちひろ……ちひろね」  彼は僕の名前を、確かめるように繰り返し呟いていた。
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