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「そんなものはなくても、人はありふれた日常や小さな幸せがあれば十分生きていける。そうやってみんな、普通の人生を送るんだって」
この言葉に触れて、僕は少し傷つきながらも、それが現実なんだなと、受け入れることはできた。
そんなもんだろう、と。
「涼香さんを否定しようっていうんじゃないですよ。この言葉には、まだ続きがあったんです」
うつむいていた涼香さんが顔をあげる。
前髪が短くなってよく見えるようになった表情から、希望を探そうとしている様子がわかった。
「だからといって、そういうかけがえのないものが不要かと言うと、そんなこともない。なくても人は生きていけるが、あったほうがより、その人の人生は輝く、と」
前置きが随分と長くなってしまった。
らしくもなく、しゃべりすぎている。
「僕にとって、涼香さんはそういう人です。涼香さんに出会えて、僕の人生は変わりました。だから、これからも僕は、涼香さんの隣にいて、涼香さんの居場所に、なりたいんです」
「律生、くん……」
「涼香さんが、好きです。僕と、付き合ってくれませんか」
とうとう言った。
この言葉を伝えるために、いったいどれだけの回り道をしただろう。
あとから振り返って、あれもまた悪くはなかったと、そう思いたいものだ。
悲しい思い出になんて、したくない。
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